010:「体当たり」不使用による失敗

「体当たり」を知らない場合

「体当たり」はそれなりに高度な技術です。
もし「体当たり」を知らずに2枚馬龍将棋に挑むとどうなるでしょうか。

手合割:その他 
上手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|三
| ・ ・v玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ 龍 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ ・ ・ 馬 ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし

▲5六馬    △6三玉    ▲4五馬    △7四玉    ▲5六馬    △6三玉
▲4五馬    △7四玉    ▲5六馬    △6三玉    ▲4五馬    △7四玉
▲5六馬
まで13手で千日手

変化:1手
▲8五馬    △7三玉    ▲5四龍

踏みとどまる玉

f:id:kousokubougin:20150614104647p:plain

1図、玉がバリアの縁ギリギリで踏みとどまっているので、龍のバリアはこれ以上前進できません。
馬で王手をかけて、玉の位置を変えさせてみましょう。

1図からの指し手
▲5六馬(2図)

f:id:kousokubougin:20150614104928p:plain

王手をかけるとしたら▲8五馬の体当たりか▲5六馬のどちらかです。
体当たりを知らないとすれば▲5六馬と王手をかけるしかありません。

2図からの指し手
△6三玉(3図)

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上手は△6三玉と、バリア際に踏みとどまりつつ王手を回避します。
もしここ以外に逃げると、下手はバリアを前進させることができます。

3図からの指し手
▲4五馬(4図)

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馬による王手は▲4五馬・▲7四馬の2つです。
▲7四馬では△同玉なので▲4五馬と王手します。

4図からの指し手
△7四玉(5図)

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3図と同じ理由で△7四玉と逃げます。

千日手

5図からの指し手
▲5六馬(再掲2図)

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▲5六馬と王手した局面は、2図とまったく同じ局面となっています。
以下△6三玉▲4五馬△7四玉▲5六馬……と繰り返せば、また同じ局面に戻ります。
つまり「千日手」です。
しかもこの手順において、下手は常に王手となる手を指し続けているため「連続王手の千日手」に該当します。
したがって2図が4回現れた時点で下手の反則負けとなります。
下手は結局バリアを前進させられませんでした。

玉を押しのける

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 参考図を見てください。
赤マスは「龍の利きに入らないギリギリのマス目」を表しています。
龍から見て、この8マスのどれかに玉がいる場合、下手はバリアを前進させることができません。
1図からバリアを左上方向へと進めるためには、7四と6三を「同時に」塞ぎ、玉を赤マスから追い出す必要があります。

1図からの指し手
▲8五馬(6図)

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▲8五馬と体当たりすれば、玉は7四、6三のどちらにもとどまれません。

6図からの指し手
△7三玉    ▲5四龍(7図)

 

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△7三玉と逃げた隙をついて▲5四龍です。
体当たりを用いたことで、バリアを前進させることに成功しました。

高度な技術には理由がある

3枚馬龍将棋では、玉の利きを避けていても玉を寄せ切ることが可能でした。
しかし2枚馬龍将棋では「利きを避ける」という規則に例外を見出して「利きに踏み込む」技術、つまり「体当たり」を使わなければ不可能です。
「駒を取られないために、敵駒の利きを避ける」から「駒を取られないことを読み切り、敵駒の利きに踏み込む」へ。
つまり発想のしかたに飛躍があります。
それだけ高度な技術ですが、必要な技術なのです。