十枚落ち 4つの方針

十枚落ちの「勝ち方」を説明するための理論が固まった。
カギは『4つの方針』だ。

(1)『攻め駒を玉に近づける』
(2)『2対1で攻める』
(3)『玉を追う方向を決める』
(4)『金銀で守る』

この4つに沿って指し進めれば十枚落ちは勝てる。
実戦譜を見ながら解説していこう。

手合割:十枚落ち
下手:下手
上手:上手

△4二玉    ▲7六歩    △5四歩    ▲6六角    △2四歩    ▲9三角成(1図)
△5三玉    ▲2六歩    △4四玉    ▲2五歩    △同 歩    ▲同 飛
△3四歩    ▲2三飛成(2図)
△5五歩    ▲2五龍(3図)
△6四歩    ▲7一馬    △5四玉(4図)
▲3四龍    △4四歩(5図)
▲同 龍    △6三玉    ▲5三龍    △7四玉(6図)
▲5五龍    △8四歩(7図)
▲5三馬    △6五歩    ▲5四馬    △1四歩    ▲6五龍    △8三玉
▲7五龍    △7四歩(8図)
▲6四龍(9図)
△1五歩    ▲6三馬    △8五歩    ▲7四龍    △8二玉    ▲7三龍
△9二玉    ▲7二馬    △8六歩    ▲8二龍(10図)
まで46手で下手の勝ち

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初手から1図までの手順で、下手が指したのは▲7六歩~▲6六角~▲9三角成の3手。
この3手は、方針(1)『攻め駒を玉に近づける』に沿った手である。
自陣にいた角を敵陣へと進め、更に馬に成ったことで、上手玉を詰ますための攻め駒として活用できるようになった。
このあとは▲7一馬~▲6二馬のように近づけていけばよい。

▲9三角成は一時的に玉から遠ざかっているように見えなくもないが、これも『玉に近づける』の一環と捉えてよい。

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次は飛車を『玉に近づけ』ていく。
初形では自陣の歩が邪魔をしているのでその歩を▲2六歩と突き、以下▲2五歩△同歩▲同飛と歩を交換することで飛車の進路が開ける。

最後の▲2三飛成は上手玉に対する距離を変化させる手でははないが、必要な手だ。
成っていない飛車と成駒の龍では、玉に近づいたあとの制圧力が大違いなのだ。
「大駒を成る」ことは「玉への圧力を上げる」という意味で『攻め駒を玉に近づける』ことと同等の価値があると理解してほしい。

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3図の▲2五龍は、方針(3)『玉を追う方向を決める』に沿って指された手である。
以降の手順を見てもらえればわかるが、下手はこの時点で、上手玉をおおよそ左奥方向=9一方面へと追うことに決めている。
玉を左奥方向へと追い込むには、攻め駒を右手前方向から近づけていけばよい。

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3図の時点で、龍は上手玉に対して十分に近づいており、単独でこれ以上玉に迫ることは不可能だ。
こんな局面ではもう1枚の攻め駒である馬を使おう。
方針(1)に従い、9三で待機していた馬を▲7一馬と活用する。
これは4四玉に対する王手なので△5四玉と応じて4図。
3四歩を守っていた玉が動いたため、▲3四龍と取れるようになった。
代えて△3三玉なら、▲5五龍とこちらの歩を取ればよい。

一つ注意しておくと、▲7一馬は王手ではあるものの、決して「王手をかけよう」というつもりで指された手ではない。
あくまで『攻め駒を玉に近づける』手がたまたま王手になっただけだ。
この点に関しては次回の記事で詳しく触れる。

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5図の△4四歩は王手を受けた手だが、この時4四には7一馬と3四龍の2枚が利いている。
よってそのまま▲4四同龍と取ってしまえる。
これが方針(2)『2対1で攻める』ということである。
玉1枚に対して、龍と馬の2枚で攻めれば上手の守りを突破できる。

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▲4四同龍→▲5三龍と『2対1』の攻めを続けて6図。
この時点で駒同士の位置関係を見てみると、龍と馬が上手玉を下から追う形になっている。(将棋では一段目と九段目を下、五段目を上と呼ぶ)
これは先ほど決めた方針『上手玉を左奥方向へ追う』に反する状態だ。
▲5五龍として、位置関係を修正しよう。

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7図は初心者が間違えやすい局面である。
ここまで▲3四龍→▲4四龍→▲5三龍→▲5五龍と駒を取りながらテンポよく攻め続けてきただけに、取れる駒がないと攻めの目標を見失ってしまうのだ。

こんな時こそ方針に沿って考えよう。
▲5三馬とし『攻め駒を玉に近づけ』ながら6四歩に対して『2対1で攻める』手を狙う。

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▲7五龍は次に▲6三馬として7三歩を『2対1で攻める』手を狙った手。
上手は△7四歩と抵抗してきた。
これをあわてて▲7四同龍と取ってしまうと△同玉と龍を取られて負けになる。
7四には龍1枚しか利いておらず、『2対1』にはなっていない。
つまり攻める準備が整っていないのだ。

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慌てず▲6四龍とかわしておけば問題ない。
次に▲6三馬とし、改めて7四歩に狙いをつけなおそう。

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あとは『2対1』の攻めで押し切って、詰みまでたどりつける。
3図~10図の流れを見ると、常に上手玉を左へと追いやるように攻めていることがわかる。
方針(3)『玉を追う方向を決める』も完遂できたといえる。

方針(4)『金銀で守る』に関しては本局では使う場面がなかったが、これは理想的な勝ち方ができた証拠だ。
4つの方針のうち(1)~(3)は攻めに関する方針だが、(4)は受けに関する方針である。
よって本局のように、上手の攻めが下手陣に届く前に上手玉を寄せ切ってしまった場合、(4)は使う必要がない。

このように『4つの方針』に沿った指し方をしていれば、自然な流れで上手玉を寄せ切り、勝つことができる。