十枚落ち 大人の初心者

今回はいつもとは違う十枚落ちの指し方を解説する。
なにも龍・馬の2枚を使って寄せ切るばかりが十枚落ちではないのである。

勝つための方針

(1)『攻め駒を玉に近づける』
(2)『2対1で攻める』
(3)『玉を端に追い詰める』

負けないための方針

(4)『歩がぶつかったら取る』
(5)『金銀で守る』

手合割:十枚落ち

△4一玉    ▲7六歩    △4二玉    ▲6六角    △5四歩    ▲2六歩
△3二玉    ▲3八銀    △6四歩    ▲9三角成  △4四歩    ▲2五歩
△5五歩    ▲4八金    △3四歩    ▲2七銀    △3三玉    ▲3六歩
△1四歩    ▲2六銀    △7四歩    ▲3八飛(1図)
△4三玉    ▲7一馬
△8四歩    ▲6八銀    △8五歩    ▲6六歩    △3三玉    ▲6一馬
△4五歩    ▲3五歩    △同 歩    ▲同 銀(2図)
△8六歩    ▲同 歩
△8八歩(3図)
▲7九金    △8九歩成  ▲同 金    △4二玉    ▲4四銀
△5一桂(4図)
▲3三飛成  △4一玉    ▲3二歩    △5六歩    ▲3一歩成(5図)

まで48手で下手の勝ち

今回の題材は正月休みに従兄弟と指した将棋。
従兄弟も初心者ではあるが、彼は大人の初心者である。
普段、私が粕屋町将棋会で教えているような子供の初心者とは、指し手の趣がだいぶ異なっている。
子供は、本能のままにワーッと来る感じの指し方がほとんど。
対して大人は、初心者であってもいくらかの知識を聞きかじっている場合があり、見よう見まねで「囲い」や「棒銀」のような指し方をすることも珍しくない。

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手順に若干のぎこちなさを感じるものの、3筋を攻める狙いで一貫した駒組み。
文句なしの「棒銀戦法」である。
▲4八金も(5)『金銀で守る』に沿っており、有効手として評価できる。

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満を持して開戦。
攻めに関してはほぼ満点と言える指し方をしている。
特に素晴らしいのは、1図で玉から遠い位置にいた馬を、仕掛けの前にしっかり『玉に近づけ』ていること。
例えば1図から△4三玉▲3五歩△同歩▲同銀△6五歩▲3四銀△5三玉▲3三銀成(A図)と進んだ局面と比べてみてほしい。

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A図が上手玉を捕らえるにはまだまだ時間がかかりそうなのと比べて、2図では馬が、上手玉の9筋方面への逃走を先回りして防ぐ形になっており、上手玉を盤の右上方面で詰みに打ち取る目途が立っている。
仕掛け前に入れた▲7一馬~▲6一馬の2手が、(3)『玉を端に追い詰める』を実現する手として働いているのだ。

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本局で唯一明確なミスがここ。
△8八歩のと金作りを防ぐためには、▲8六同歩と取らず、代えて▲7八金(B図)△8七歩成▲同金と応じるのが良かった。
以下△8六歩なら▲8八金と引いておけば問題ない。

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もっと言うなら▲3五歩と仕掛ける前に▲7八金(C図)とあらかじめ備えておくのが一番手堅い。

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▲7八金はどちらかといえば上級者的な発想。
将棋慣れした上級者にとっては、「8筋を守る駒がいないのは危険」「7八金型は好形」という感覚は当たり前のものとして身についているのだ。

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桂損こそしたものの、▲7九金~▲8九同金が適切な受け方で被害を最小限にとどめている。
上手は得した桂を使って▲4三銀成の攻めを受けた。

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十枚落ちで駒損すると、上手の守り駒が「玉・取られた駒」の2枚に増えてしまう。
特に、下手が「龍・馬」の2枚のみで攻めている場合は、これが致命傷となってそのまま転げ落ちるように負けてしまうことも多い。
しかし本局は、下手が「馬・飛・銀」の3枚で攻めていることが幸いした。
4三の地点は受けられたものの、▲3三飛成と桂の利きを回避しながら『2対1』の攻めを継続できた。

下手の指し手を『5つの方針』に基づいて評価した結果はこのとおり。

▲7六歩 (1)○
▲6六角 (1)○
▲2六歩 (1)○
▲3八銀 (1)○
▲9三角成 (1)○
▲2五歩 (1)○ (1)○
▲4八金 (5)○
▲2七銀 (1)○
▲3六歩 (1)○
▲2六銀 (1)○
▲3八飛 (1)○ (2)○
▲7一馬 (1)○ (3)○
▲6八銀 (5)○
▲6六歩 (1)○
▲6一馬 (1)○ (3)○
▲3五歩 (1)○ (2)○
▲同 銀 (1)○ (2)○
▲同 歩 (4)○ (5)×
▲7九金 (5)○
▲同 金 (4)○
▲4四銀 (1)○ (2)○ (3)○
▲3三飛成 (1)○ (2)○ (3)○
▲3二歩 (1)○ (2)○ (3)○
▲3一歩成 (1)○ (2)○ (3)○

ほぼ満点である。
方針に沿う指し方は、今回紹介した指し方以外にも色々考えられる。
興味がある人は、自分なりに探してみると、新たな発見があるかもしれない。