九枚落ち 棒銀

粕屋町将棋会の見学に来たY君との将棋を見ていく。
Y君は小学6年生で、この日まで将棋経験は独学のみだったようだ。
まずは実力を測る意味で十枚落ちを行なった。
その棋譜が↓である。

手合割:十枚落ち

△4二玉    ▲7六歩    △5四歩    ▲6六角    △6四歩    ▲9三角成
△3四歩    ▲2六歩    △3五歩    ▲2五歩    △3三玉    ▲6六馬
△4四歩    ▲7五馬    △1四歩    ▲6四馬    △3四玉    ▲5四馬
△7四歩    ▲4八銀    △3三玉    ▲5六歩    △3四玉    ▲5七銀
△3三玉    ▲4六銀    △3四玉    ▲5八金左  △8四歩    ▲3八飛
△1五歩    ▲3六歩    △同 歩    ▲同 飛    △2五玉    ▲3七桂
△2四玉    ▲2六飛    △3四玉    ▲4五銀    △同 歩    ▲同 馬
△3三玉    ▲2三飛成  △4二玉    ▲2二龍    △5三玉    ▲3三龍
△4三歩    ▲4四馬    △5二玉    ▲4三馬    △6三玉    ▲6五馬
△5三歩    ▲4五桂    △6四銀    ▲3二馬    △8五歩    ▲7七桂
△6二玉    ▲5三桂成  △同 銀    ▲6五桂    △6四銀    ▲5四馬
△6五銀    ▲6三馬    △7一玉    ▲3一龍    △6一桂    ▲3二龍
△5六銀    ▲7二馬
まで74手で下手の勝ち

高学年ということもあり、既に結構な技術を持っているようだ。
十枚落ちの『方針』のうち、『龍と馬を作る』『攻め駒を玉に近づける』『2対1で攻める』『玉を端に追い詰める』に関しては、間違いなく身についていると見てよい。
また36手目▲3七桂のように「3六飛には5四馬が利いているから取られる心配はない」と読んだうえで指している手も随所に見られる。
つまり『紐』の概念も理解している。

一方で『駒損しない』に関してはやや認識が甘いところがある。
40手目▲4五銀、52手目▲5三桂成の2手がそれで、この辺りの認識不足は独学ゆえと言える。
ただまったく無頓着に駒損しているわけでもないようだ。
「駒を取られるべきではない」という意識自体は持ちつつも、例えば「4五を3対2で攻める」などの他の目的を考えた時に、駒の損得より攻めを優先してしまっているのだろう。

『駒損しない』の優先度は、基本的に他のどの方針よりも高いことを教えたうえで、九枚落ちを行なった。

手合割:その他
上手の持駒:なし 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v玉v金 ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし
上手番

△3二金    ▲7六歩    △4二玉    ▲5五角    △5四歩    ▲7三角成(1図)
△4四歩    ▲6三馬    △4三金    ▲2六歩    △3四歩    ▲2五歩
△3三玉    ▲4一馬(2図)
△3五歩    ▲3八銀    △1四歩    ▲2七銀
△4五歩    ▲2六銀    △3四玉(3図)
▲2四歩    △同 歩    ▲2五歩(4図)
△同 歩    ▲同 銀    △4四玉    ▲6三馬    △5三金    ▲7四馬(5図)
△5五歩    ▲1四銀    △4六歩    ▲同 歩    △4五歩    ▲同 歩
△同 玉    ▲2三飛成(6図)
△4四金    ▲4六歩    △同 玉    ▲2六龍(7図)
△4五玉    ▲4六歩    △5四玉    ▲2三龍(8図)
△5六歩    ▲6三龍(9図)
△5五玉    ▲5六馬
まで50手で下手の勝ち

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まずは角を成り、馬を作る。

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そして作った馬を『玉に近づける』。
ここからは多種多様な攻め方が考えられる。
例えば▲2六飛~▲6六飛(A図)のように、大きく迂回して飛成りを狙うのも一法だ。
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これは以前の記事で紹介した将棋と同様の発想である。f:id:kousokubougin:20170916162701p:plain

Y君は棒銀を繰り出す。
今は2五歩が邪魔をしているが、この銀をうまく前進させて敵陣突破を狙おう。
方法としては▲1六歩が考えられる。
以下△9四歩▲1五歩△同歩▲同銀(B図)と銀が2五歩を迂回して前進すれば、2四の利きが『3対2』となるので、次に▲2四歩△同歩▲同飛の攻めがある。

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B図から△3三金と『3対3』で受けられても、▲4二馬とすれば『4対3』となり、やはり突破できる。

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K君の選択は「継ぎ歩」だった。
歩得を活かして上手の歩を引っ張り出し、強引に跳び付く。

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▲6三馬と玉の退路へ先回り。
△5三金の馬取りにも落ち着いて▲7四馬と引いておけば問題ない。

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▲1四銀~▲2三飛成で、飛成りも完了。
△4六歩▲同歩△4五歩の反撃も、素直に応じておいて何事もない。
上手の攻めは、下手に正しく応じられれば成立しないことを承知の上で行なう場合も多いので、恐れず対処すれば案外大したことなかったりする。

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△5七玉は▲5八金右まで。
△3六歩も▲同龍△5七玉▲5八金右で同じ。

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▲4六歩と押さえてから▲2三龍で包囲網完成。
非常にそつのない寄せである。

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△5六歩の足掻きにも▲同歩と取るのではなく、きっちり▲6三龍から3手詰めに討ち取る。

最初から最後まで緩みなく勝ち切った。
十枚落ちの時に見られた『駒損しない』の軽視も改善されており、満点の指し回しと言える。
このような将棋が指せるようになれば、九枚落ちは卒業である。