十枚落ち 下手が負けてしまう理由
十枚落ちにおける下手負けの将棋を見ていく。
本局はかなり典型的というか、下手が負ける理由がはっきりしている例だと思う。
手合割:十枚落ち
△4二玉 ▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △3三玉 ▲2六飛
△5四歩 ▲8六飛 △5五歩 ▲8三飛成 △3五歩 ▲7六歩
△4四玉 ▲6六角 △1四歩 ▲9三角成(1図)
△3四玉 ▲7三龍
△2五玉 ▲6六馬 △3四玉 ▲5五馬 △4四歩 ▲6三龍
△1五歩 ▲7八銀 △2四歩 ▲5四龍(2図)
△3三玉 ▲7七銀
△2五歩 ▲6六銀 △8八歩(3図)
▲6五銀 △8九歩成 ▲6四銀
△9九と ▲4四馬 △2三玉 ▲5三銀成 △5一香(4図)
▲4五馬(5図)
△2二玉 ▲2四龍 △3二玉 ▲2三龍 △3一玉
▲4三成銀 △5七香不成▲5八歩 △4一玉(6図)
▲4四馬 △4二歩
▲3二成銀(7図)
△5一玉 ▲3三馬(8図)
△5二玉 ▲5七歩 △5三玉
▲5五香 △6四玉 ▲4二成銀 △6三桂 ▲5三香成 △同 玉
▲4三成銀 △6四玉 ▲3四龍 △5四香 ▲7八金 △5五桂
▲5六歩 △4七桂不成▲4八玉 △3九桂成 ▲同 玉 △6五玉
▲6六歩 △6四玉 ▲4六桂 △6三玉 ▲5四桂
△4六歩 ▲7七金 △4七歩成 ▲4二成銀 △2六歩 ▲4三馬
△2七歩成 ▲4四龍(9図)
△2八銀
まで91手で上手の勝ち
まずは『龍と馬を作る』を達成。
続いて『攻め駒を玉に近づける』。
ここまでは順調だ。
▲4四龍や▲4四馬で『2対1で攻める』が可能なのに、自陣の銀を使おうとする。
これには△8八歩の反撃が生じる。
下手は最初、ここで▲5二歩と打とうとしたがそれは二歩。
二歩を指摘され、悩んだ末に選んだのは▲4五馬の王手。
王手だが、駒が玉から遠ざかる動きなのであまり好ましくない選択である。
『攻め駒を玉に近づける』、『2対1で攻める』の2方針が、まだしっかり身についていないことがうかがえる。
方針に沿うならば▲3四馬か▲4三龍が正しい。
▲2四龍~▲2三龍、▲4三成銀の3手は『玉に近づけ』ているので良い動き。
ここからの5手が本局最大のポイントである。
▲4四馬はまだ許せるとしても、▲3二成銀~▲3三馬は完全に方向違い。
やはり『攻め駒を玉に近づける』、『2対1で攻める』の2方針から逸れてしまっている。
代えて▲3二龍~▲5二龍とすれば詰みだった。
十枚落ちという大きなハンディがあってなお、下手が上手に負けてしまう原因がここに現れている。
ゴールテープはもう目の前にあるのだが、初心者はそれに気付かないまま素通りしてどこか違う方向へ向かって走ってしまうのだ。
ここを直さない限り、下手が勝つことはありえない。
▲3二成銀~▲3三馬の動きを見て「ああ、もったいないなあ」と感じられる人は、『攻め駒を玉に近づける』が感覚として十分身についていると言える。
8図以降、下手がずっとちぐはぐな手を指し続けている間に、上手は着々と下手玉に迫っていく。
9図▲4四龍でやっと『攻め駒を玉に近づける』を再開したが、時すでに遅し。
下手玉は△2八銀までの1手詰めである。
『攻め駒を玉に近づける』は十枚落ちのみならず、将棋というゲームの根幹を成す最重要方針である。
どんな手を指すときにも、『攻め駒を玉に近づける』という最終目標へ向かうための一過程であることを意識できていなければならない。
これは他のどんな知識・技術を身につけるよりも前に、最優先で学んでほしい考え方だ。
この記事は以前の記事とほぼ同じ内容であるが、今回のほうが問題点がはっきりする棋譜だと思う。
ちなみに下手を持っている対局者は同じである。