十枚落ち 上達過程その2

引き続き M・H君 vs 私 の実戦を見ていこう。
3戦目は、前回の記事で紹介した2戦目の直後に指した将棋。

開始日時:2017/12/03 15:47:45
終了日時:2017/12/03 16:02:10
手合割:十枚落ち

△4二玉    ▲2六歩    △3四歩    ▲2五歩    △3三玉    ▲7六歩
△4四歩    ▲2四歩    △同 歩    ▲6六角    △5四歩    ▲9三角成
△4五歩    ▲4八飛    △4四玉    ▲4六歩    △同 歩    ▲6六馬(1図)
△5五歩    ▲4六飛    △4五歩    ▲4七飛    △3五歩    ▲5六歩(2図)
△6四歩    ▲5五歩    △7四歩    ▲5四歩    △同 玉    ▲5五歩
△4四玉    ▲5六馬    △8四歩    ▲4五飛    △5三玉    ▲7四馬
△4四歩    ▲3五飛    △4二玉    ▲4三歩    △5三玉    ▲3三飛成(3図)
△4五歩    ▲4二歩成  △6二玉    ▲6三龍    △7一玉    ▲8三馬
△8一玉    ▲7二馬(4図)
△9一玉    ▲9三龍    △9二歩    ▲8二龍
まで54手で下手の勝ち

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▲6六馬と引きつけるのが好手。
『攻め駒を玉に近づける』だ。

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▲4七飛は変な形だが、初心者が飛車を七段目に引くのは割りとよくあることだったりする。
まだ好形と悪形を区別する判断基準を持っていないため、なんとなくいつもと違う形にしてみたというところだろう。
それはともかく、2図の▲5六歩は目の付け所が良い。
しかし次の▲5五歩では代えて▲5五馬△5三玉▲4五飛とするほうが勝ちが速かった。

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途中▲7四馬として△4四歩と飛車成りを防がれたのは逸機だが、▲3五飛から修正して、方針『龍と馬を作る』を達成。
あとは『攻め駒を玉に近づける』『2対1で攻める』の2方針を維持すれば勝てる。

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ここまで来ればもはや逃すまい。
しかし上級者なら▲7二龍△9一玉▲8二龍と3手詰めに討ち取るところで、▲7二馬からの5手詰めとなってしまっているあたり、まだ若干攻め足がふらついている。
これは局数を重ねることで改善されていくだろう。

前局の感想戦で教えた「勝つための考え方」=『方針』を、すぐに自分の物にできている。
初戦できれいな金矢倉を組んでみせたことからして、おそらくすでに入門書や棋書を何冊か読んでおり、大まかな知識を下地として持っていることがうかがえる。

 

4戦目は、約1か月後に行なった将棋。

開始日時:2018/01/08 16:04:28
終了日時:2018/01/08 16:08:39
手合割:十枚落ち

△4二玉    ▲2六歩    △3四歩    ▲2五歩    △3三玉    ▲7六歩
△4四歩    ▲5五角(5図)
△5四歩    ▲7三角成  △3五歩    ▲6三馬
△4三玉    ▲2四歩(6図)
△同 歩    ▲同 飛    △4五歩    ▲2三飛成
△4四玉    ▲5三馬    △5五玉    ▲2六龍(7図)
△6五玉    ▲6六歩(8図)
△7六玉    ▲7七歩    △8五玉    ▲8六馬    △7四玉    ▲7六歩
△8四歩    ▲7五馬(9図)
△7三玉    ▲2三龍    △6三歩    ▲7七桂(10図)
△5五歩    ▲6五桂    △8三玉    ▲6三龍    △9四玉    ▲9六歩
△1四歩    ▲9五歩
まで44手で下手の勝ち

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飛車先交換を受けられても動じず、すぐさま角成り狙いに切り替える。
▲5五角~▲7三角成は、上手に△5四歩と突かれなかった場合の最短経路だ。

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玉の守りが2筋から外れた瞬間に▲2四歩。
角と飛車の活用、両方を同時に意識できている証拠だ。
大抵の初心者は、飛車の活用を考えていると角の活用にまで気が回らない、あるいは角を動かすうちに飛車のことを忘れてしまう。
ゆえに、ここで▲2四歩を指せることは、すでに単なる初心者とは一線を画す盤面認識力が備わっていることを意味する。

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これまた好手。
次に▲5六龍の詰めろ。
△3六歩や△4六歩と突かれても、歩と龍で『2対1』になっているので全て▲同龍と取ってよい。

ちなみに代えて▲4三龍と迫るのも正解。

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ここで歩を取られたのは、見落としだったと思われる。
▲6六歩と突いたために龍の紐が外れていた。
ありがちな見落としなので注意されたい。
実は8図から▲8六馬△6七玉▲6八金(A図)とすれば最短で詰んだのだが、本譜では違う手を指しているので、計算ずくではなかったということだ。
本局中、唯一の減点箇所。

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最短の詰みは逃したものの、▲8六馬~▲7六歩~▲7五馬は良い対応だ。
複数の駒で互いに紐をつけあいながら押していくという、『2対1で攻める』の発展形とも言える指し回し。
いわゆる「手厚い攻め」である。

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この桂跳ねが決め手。
私は普段、初心者は不用意な桂跳ねを控えるべきと指導するが、この▲7七桂は文句無しの好手。
上手に防ぐ手がなく、次の▲6五桂が確実に通ることを読み切っている。
しかも7五馬が接近戦に弱い桂馬の護衛役になっているため、自陣に隙を生じることもない。

この一局にかかった時間はわずか4分。
ほとんどノータイムの着手である。
8図にて小さな見落としこそあったものの、3戦目と比べても足腰がしっかりしてきた印象が感じられ、十枚落ちで学ぶべき技術・考え方はほぼ完全に身についていると見てよいだろう。
九枚落ちへ進むのに十分な力があると判断した。

感想戦を終えたのち、5戦目となる九枚落ちを行なった。