九枚落ち 上達過程その5
前回の敗局から2週間後に行なった、通算8戦目となる九枚落ち。
終了日時:2018/02/04 15:11:31
手合割:その他
上手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v玉v金 ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし
上手番△3二金 ▲7六歩 △4二玉 ▲5五角 △5四歩 ▲7三角成
△5三玉 ▲5八飛 △4四歩 ▲5六歩 △4三金 ▲5五歩(1図)
△4五歩 ▲8三馬 △4四金 ▲7五歩 △5五歩 ▲5六歩
△同 歩 ▲同 飛 △5五歩 ▲7六飛 △6四歩 ▲4八銀(2図)
△5四金 ▲6八銀 △8八歩(3図)
▲7七桂 △8九歩成 ▲7四歩
△9九と ▲7三歩成 △9八と ▲7二と △9七と ▲7三飛成
△4四玉(4図)
▲6二と △8七と ▲8五桂 △7七歩 ▲7九歩
△5六歩 ▲6三と △5五香(5図)
▲5三と △同 金 ▲5八歩(6図)
△2四歩 ▲9三桂成 △2五歩 ▲7二龍 △2六歩(7図)
▲7三馬
△2七歩成 ▲4二龍 △5四玉 ▲7二馬 △6三金 ▲5二龍(8図)
△4四玉 ▲6三馬 △2六と ▲5三馬 △3四玉 ▲2二龍
△2五と ▲2六歩(9図)
△2四歩 ▲2五歩 △同 玉 ▲2六金
△1四玉 ▲1六歩 △3四歩 ▲1五金
まで76手で下手の勝ち
前局の敗因に対して、M・H君はしっかりと解答を用意していた。
2筋攻めの準備をしている間に中央から反撃されると困る。
だったら始めから中央で戦えば良いじゃないか。
まったくもって大正解である。
飛車を7筋に転換して成り込みを目指す。
同時に△5六歩・△4六歩といった攻めにも、浮き飛車の横利きで▲同飛と対応できる形だ。
さらに▲4八銀と上がっておけば中央の守りは万全となる。
予め5七・4七といったと金を作られやすいマス目を受けておき、将来のと金攻めを予防している。
しかし▲6八銀とこちらの銀を上がったのは、8八に隙が生じてまずかった。
銀を使ううえでありがちな失敗なので覚えておこう。
代えて先に▲7八金(A図)と上がっておくのが形。
これなら次に▲6八銀としても隙は生じない。
2八に関しても事情は同じだが、こちらは上手2三歩が残っており、二歩になるので△2八歩と打てない。
香は取られたものの、助けられる桂はしっかり逃がし、龍・馬・と金で攻め駒が3枚揃った。
これらをうまく活用すれば勝利は目前である。
3図~4図の手順については、1つ言及しておきたい考え方があるので後述する。
▲7九歩は受けの好手。
これで△7八歩成以下のと金攻めを食い止めることに成功した。
と金攻めの脅威は、受けの難しさにある。
と金は元が歩なので、他の駒との交換になった場合、必ずと金側が駒得になる。
例えば▲7九歩に代えて▲6三と△7八歩成▲同金△同と▲同龍(B図)と進むと、「歩・歩」対「金」の交換で下手の駒損となってしまう。
上手の攻め駒を一掃できたように見えて、実は下手のほうが大きな被害を負ってしまうのだ。
しかし唯一、歩だけはと金と交換になっても駒損にならずに済む。
▲7九歩に対して△7八歩成▲同歩△同と▲同金となれば、「歩・歩」対「歩」の交換で、下手は駒損せずに受け切れている。
『歩の攻めは歩で受ける』
この考え方は重要なので覚えておいて欲しい。
上手としては、尚も△7八香と打ち込んで強行突破を狙う手もあるにはあるが、本局では狙いを5筋に切り替えることにした。
得した香を据えて△5七歩成の反撃を狙う。
以下▲同銀右△同香成▲同銀となれば「香・歩」対「銀」の交換で上手の駒得となる。
ここが勝負所だ。
▲5三とが痛恨の見落とし。
5三の利きは『2対2』なので△同金とタダで取られてしまった。
代えて▲6四ととこちらから攻めれば『2対1』の攻めが決まっていたのに、非常にもったいない。
「6三とは▲5三と・▲6四とと動かせる」
「5三のマス目は『2対2』の形である」
「6四のマス目ならば『2対1』の形なので攻めが成立する」
普段なら簡単にわかる理屈なのに、上手に△5七歩成からの攻めを見せられて、冷静さを欠いてしまったのだろう。
しかしM・H君はここからが強かった。
▲5八歩と受けてまだ崩れない。
▲4八銀・▲6八銀の先受けが活きて、△5七歩成と突っ込んでこられても▲同歩△同香成▲同銀右と、攻めの火種を残すことなく受け切れる。
戻って▲5三とでは代えて▲5八歩△2四歩▲6四と(C図)とするのが最善だった。
まずは△5七歩成を受けておいて、自陣の憂いを無くしてから着実に攻める。
これが勝負の呼吸というものだ。
7筋も5筋も受け止められて、上手から狙える場所は2筋しか残っていない。
よって△2四歩~△2五歩~△2六歩と伸ばしていくのは必然。
これを▲2六同歩と取るのは、以下△2八歩▲3九金△2九歩成▲同金△8六桂でややこしくなる。
7図では▲3八金の受けが最善で、以下△2七歩成▲同金△2六歩(▲同金は△2八歩)に▲2八金と引けば、今度こそ完全に受け切れていた。
安全勝ちの順を逃したものの、M・H君は攻めの手で望みをつなぐことに成功する。
と金を失い『3対2で攻める』を実現できなくなったが、九枚落ちの勝ち方は『3枚目の攻め駒を作る』以外にも存在する。
すなわち『守りの金をタダ取りする』である。
随分前の記事になるが覚えているだろうか。
▲4二龍△5四玉▲7二馬△6三金▲5二龍と進めて、上手にどう応じられても金をタダ取りできる局面を作り上げた。
お見事である。
ちなみに△5四玉に代えて△4三金は▲6二馬△5四玉▲5二龍、または▲6二馬△3四玉▲5二馬で、やはり金のタダ取りが確定する。
重要な手順なので、盤に並べて確認してもらいたい。
上手は2七とを最後の拠り所として、逃走を試みる。
下手は本譜▲2二龍に代えて▲2六馬とと金を取れば簡単な勝ちだったが、これを見逃す。
または▲3五金と打ち、玉とと金の合流を阻止するのもわかりやすかった。
△2五とと引いた局面では、いろいろな決め手がありつつも、1手間違えると途端に寄らなくなる危険性もある、難しい局面だ。
最も速いのは▲4四金△3五玉▲5四金(D図)△3四玉▲4四馬までの5手詰め。
馬の利きで△2六玉と逃げられない。
本譜の▲2六歩も読みの入った素晴らしい決め手だった。
次に▲2五龍までの詰めろで、△2六同とと取っても▲3五金までの1手詰め。
途中の失敗にも心折れることなく、最後まで読みの力を振り絞って、ついに手繰り寄せた九枚落ちの初勝利だった。
それにしても、M・H君が▲2六歩という手を発見した事には本当に驚かされたし、何より嬉しかった。
▲2六歩は「詰め将棋」よりも更に高級な「必至問題」に属する系統の手筋で、九枚落ちの下手が指したにしては、破格すぎるほどに高度な一手である。
それだけM・H君が真剣に局面と向き合い、しっかりと読んでいる証拠である。
最後に3図~4図の手順について。
下手は飛車を成るために▲7二と~▲7三飛成としたが、代えて▲7二馬△9七と▲6三と△4四玉▲7三飛成(E図)の手順で成り込むほうが格段にまさる。
本譜3図~4図の手順では、と金を活用するのに▲7二と~▲6二と~▲6三と~▲6四とと4手かかった(ただし最後で間違えて▲5三と△同金と取られた)。
対してE図の順ならば▲6三と~▲6四との2手で活用できる。
▲7二馬を含めても本譜より1手速い。
E図以下は△8七と▲8五桂△7七歩▲7九歩として、次に▲6四とを狙えば良い。
馬の位置も8三より7二のほうが良く、▲6四と△同金▲同龍となった時により厳しくなっている。
と金および金・成銀・成桂・成香は、その動きの性質上、斜め下方向への足が遅い。
ゆえに本譜▲7二とのような「攻めの目標が斜め下に行ってしまう動き」は避けるべきなのだ。
1手先の局面だけを考えるのではなく、もっと先まで見据えた駒効率を意識すること。
これができるようになれば、将棋全体の作りに根本からの大変革が起こる。
いわゆる「筋が良い」将棋になるのである。
私がこのブログで『攻め駒を玉に近づける』という『方針』をひたすら強調して書いているのも、最終的にこうした考え方を身につけてもらいたいからだ。