六枚落ち 上達過程その8

ついにやってきた六枚落ちの舞台。
M・H君はどの程度太刀打ちできるだろうか。

11局目

開始日時:2018/03/18 16:42:33
終了日時:2018/03/18 16:54:55
手合割:六枚落ち

△4二玉    ▲7六歩    △7二金    ▲7八銀    △6二銀    ▲7七銀
△5四歩    ▲6六銀    △5三銀    ▲5六歩    △5二金    ▲4八銀
△4四歩    ▲5七銀上  △4三金    ▲4六銀    △8四歩    ▲5八飛
△6四歩(1図)
▲7五銀    △8三金    ▲5五歩    △同 歩    ▲同 銀(2図)
△5四歩    ▲6四銀右  △同 銀    ▲同 銀    △7四金    ▲6三銀成
△6五金(3図)
▲7七桂    △7六金    ▲6五桂    △7七銀(4図)
▲5三銀
△3二玉(5図)
▲7九角    △2二玉    ▲5二銀不成△4二金    ▲5四飛
△6七金(6図)
▲5三桂成  △6八歩(7図)
▲同 金    △同銀成    ▲同 角
△同 金    ▲同 玉    △7六角(8図)
▲4二成桂  △同 銀    ▲4一銀成
△6七金    ▲5九玉    △5四角    ▲4二成銀  △1四歩(9図)
▲3一銀
△1三玉    ▲2二銀打  △2四玉    ▲2六金    △7九飛(10図)
▲4八玉
△5六桂    ▲3九玉    △4九飛成(11図)
▲2八玉    △3八金
まで71手で上手の勝ち

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八枚落ちと比べ、銀2枚が加わっている。
これまでとはまったく違う上手陣の厚さを感じてもらいたい。
下手も銀2枚を繰り出して対抗する。
知っていて組んだわけでもないだろうが「カニカニ銀」のような構えとなった。

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対局中の私は、▲7五銀は▲6六角~▲8四銀の攻めを狙っているのだと思ったが、違った。
M・H君は▲5五歩△同歩▲同銀として6四の地点を狙ったのだ。
こちらのほうが攻める場所が上手玉に近く、繰り出した銀を2枚とも活用できているので、より本筋の攻めと言える。
正直この構想には驚かされた。

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見事に6筋を突破。
しかし△6五金と出られた3図は、まだまだ難しい局面だ。
大駒活用の目途が立っておらず、また下手目線では上手の金が6七・8七辺りに擦り込んでくる攻め筋が嫌らしく映るだろう。

3図で指してみたい手は▲7七桂、▲7九角、▲7八金、▲7八飛、▲9六歩、▲6二銀、▲5三歩、▲5二歩などなど。
将棋ソフト「激指」の助けを借りつつ色々な手を検討してみたが、どうやら▲7九角△2二銀▲9六歩(A図)が最善のようだ。

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▲7九角△2二銀の交換を入れて3一銀をそっぽにさせてから、一転▲9七角の覗きを狙う。
上手はこの角筋が受けにくい。
以下△7六金なら▲9七角△4二玉▲5三成銀(B図)。

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B図は次に▲4一銀が厳しいので△6七金は間に合わず、また△5三同金▲同角成△4二銀には▲5四馬が王手金取り。

ざっと解説したものの、率直に言ってかなり高度な攻め筋である。
六枚落ちともなれば、これぐらい深い読みが求められる局面も、そこそこの頻度で出現する。
これを読み切る力がある人は、堂々と読み切って勝てば良い。
しかし六枚落ちに挑む際の心構えとしては、そもそも『高度な読みが求められる局面を作らない』ように、攻めを組み立てるべきだろう。

本局、▲5五歩△同歩▲同銀の攻めは最善手だったかもしれないが、駒落ち将棋における「勝ちやすさ」の観点からは最適解ではなかった可能性がある。

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下手は▲7七桂~▲6五桂と5三への増援を送るが、上手は桂のいなくなった隙を突いて△7七銀と打ち込む。
4図は相当に紛れている局面だろう。

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予定通り▲5三銀と打ち込んだが、△3二玉とかわされて攻めが空振ってしまった。
打ち込む駒が金ならば▲4三金△同玉▲5三桂成で手になったのだが、銀ではそれが不可能。
枚数は『3対2』で勝っていたものの、当たりになる駒が玉だけなので、このような受けが成立する。

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ここで▲4六角と出れば、まだ下手に勝ち目のある展開だった。

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角出を消されてからは、実戦的に下手が勝てない将棋となった。

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飛車金の両取り。

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飛車も角も失いはしたが、あと一息で詰む。
と、下手が若干の希望を抱きそうになる瞬間に△1四歩。

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一応▲3一銀から追ってはみるものの、即詰みは無く、あきらめて▲2六金と縛る。
△7九飛以下、下手玉は即詰み……と見せかけて、実は▲6九歩と合駒すれば詰まなかった。
それどころか▲6九歩なら、上手が△7五飛成と詰めろを受けても▲3六歩でほぼ必至となる。
つまり10図は下手勝ちの局面なのだ。

ずっと下手苦戦の調子で解説していたが、実はこれまでの手順中、厳密な意味で下手が形勢不利に陥った瞬間は存在しない。
それでも現実的には下手が勝ちにくい展開だったことは確かで、私もM・H君が△7九飛に対して正着の▲6九歩を発見してくるとは思わなかった。

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取れば頭金までの詰み。
今度こそ本当に上手勝ちとなった。

六枚落ち一発勝利こそ実現しなかったものの、M・H君はすでに十分強い。
本局は上手が腕力に物を言わせてねじ伏せただけで、おそらく次の対局ではもう六枚落ちを突破するだろう。
本局も、仕掛けの前に2八まで玉を囲うなどもう一工夫していれば、下手の快勝譜となっていた可能性は高い。

この11局目までが「上達過程」シリーズとして、連載開始当初から解説する予定だった棋譜である。
しかしつい先日05/06に12局目となる六枚落ちを行ない、M・H君はその将棋で本当に初勝利を挙げた。
というわけで次回、その初勝利局を解説して「上達過程」シリーズの最終回とする。