六枚落ち 上達過程その9
通算12局目、六枚落ちとしては2局目となる本局。
前局から約2か月、M・H君は目を見張るほどの成長を遂げていた。
開始日時:2018/05/06 16:09:43
終了日時:2018/05/06 16:29:42
手合割:六枚落ち△3二金 ▲7六歩 △7二金 ▲1六歩 △2二銀 ▲1五歩
△4二玉 ▲1七香 △2四歩 ▲2六歩 △2三金 ▲3八銀
△3四歩 ▲2七銀 △3三銀 ▲3六銀(1図)
△4四歩 ▲1八飛
△4三玉 ▲1四歩(2図)
△同 歩 ▲同 香 △2二銀 ▲1二香成
△1三歩(3図)
▲2二成香 △同 金 ▲2五歩 △同 歩 ▲同 銀
△2六歩(4図)
▲1四歩 △2七歩成 ▲1六飛 △1一香 ▲1三歩成
△同 金 ▲1四歩(5図)
△2三金 ▲2四歩 △1五歩(6図)
▲3六飛
△3三金 ▲2二銀(7図)
△6二金 ▲3三銀成 △同 玉 ▲3四飛
△4二玉 ▲2三歩成 △5二玉 ▲3二飛成 △6一玉 ▲4四角(8図)
△2八と ▲3一龍 △7二玉 ▲3三角成 △2九と ▲3二龍
△8四歩 ▲5一馬(9図)
△2八と ▲6一金(10図)
△5五桂 ▲6二金
△8三玉 ▲6一馬 △7二銀打 ▲同 金 △6七桂不成▲6八玉
△7九桂成 ▲7一金 △7四玉 ▲7五金(11図)
まで76手で下手の勝ち
「角道を開ける」→「端攻めを見せる」→「△2三金の受けには▲3六銀と戦力を足す」
事前に作戦をしっかり練って来たようだ。
やはり六枚落ちに対しては端攻めを狙うのが理に適っている。
なお上手の△7二金は緩手だった。
八枚落ちまでと異なり、▲6六角には△8二銀で受かる。
下手は明らかに1筋攻めを狙っているのだから、そちら方面の駒組みを急ぐべきだった。
1図からは△3二玉▲1八飛△2二玉(A図)の進行も考えられた。
A図は、下手が▲1四歩△同歩▲同香と攻めても△1三歩(B図)で失敗するように見える。
しかし実は、B図以下▲1三同香成△同金▲同飛成△同玉▲3三角成(C図)と強行突破する攻めが成立して、一気に下手勝ちとなる。
C図は▲2三金△1四玉▲2四馬までの詰めろ。
△2一香と受けても▲1五歩等で寄せ切れる。
ちなみにB図の△1三歩に代えて△1四同金▲同飛△1三香でも、▲同飛成△同玉▲3三角成で、C図とほぼ同じになる。
大駒を切る攻めなので、実行する前にしっかり読みを入れるのは必須だが、これぐらいはっきり勝勢になるならば、大駒切りのリスクに見合う戦果と言える。
逆に読み切る自信が無いならば、A図からは▲2五歩△同歩▲同銀または▲4六歩~▲4五歩など、じっくり確実な攻めを講じよう。
本譜は角道を止めるために△4四歩~△4三玉と構えたが、これなら下手は当然▲1四歩と仕掛ける。
上手は1筋の受けが間に合っておらず、▲1四同香に△1三歩としても▲同香成で突破される。
△2二銀~△1三歩は銀香交換を甘受して粘る方針。
3図からは▲4六歩と力を溜めて、次に▲4五歩△同歩▲2二成香△同金▲同角成を狙う手もある。
特に凝ったことをせず普通に▲2二成香△同金でも、もちろん下手が十分だ。
銀がいなくなっただけでも上手陣はかなり弱体化した。
▲2五歩△同歩▲同銀の二次攻勢は、もはや上手にとって受け切れるものではないので、開き直って△2六歩の垂れ歩で反撃を見せる。
しかし△2七歩成に▲1六飛と浮いておけば、上手からこれ以上の後続手はない。
1筋を受けるには△1一香と手放すしかなく、下手は少しずつだが確実に優位を拡大していっている。
△1五歩は上手の勝負手。
これを▲同飛と取ると△1四香▲同銀△2四金▲1六飛△1五歩で紛れる。
下手はその罠を看破。
▲3六飛~▲2二銀で、ついに完全に攻めが決まった。
△3二金と引いても▲3四銀△4二玉▲3三銀上成で押し潰せる。
どうしようもなくなった上手は△6二金と退路を開くが、これでは最序盤の△7二金が悪い方へ働いたことを意味する。
下手の攻めは▲3二飛成~▲4四角で順調そのもの。
ここまで来れば下手必勝と言って間違いない。
逆にここから逆転負けを喫するようなら、そもそも六枚落ちが適正手合いではなかったということだ。
8図~9図の指し方はあまり良くなかった。
8図と9図を見比べて欲しい。
上手は△2八と~△7二玉~△2九と~△8四歩の4手を指しているのに、下手は▲3三角成~▲5一馬の2手分しか駒が動いていない。
▲3一龍~▲3二龍が純粋な手損になったのがその原因。
手合いが上がるにつれて駒が増え、局面が複雑化したために気付きにくくなっているが、これは明らかな失着だ。
8図からは△2八とに▲3三と△2九と▲4三と(D図)と、と金を活用するのが最速の攻めだった。
D図はまさしく「と金の遅早」である。
△6四銀とむりやり受けてくるなら▲5二金△7二玉▲6二金△同銀▲5二とで良い。
9図とD図、何が違うのかと言えば『攻め駒を玉に近づける』という大方針を忠実に実行できたかどうかである。
駒が増えても基本は同じなのだ。
なおD図の順は角成りを後回しにしているため『飛車と角を成る』の方針に反しているようにも見えるが、これは『方針』の優先順位が多少入れ替わっているだけのことである。
次に▲5三と△同金▲同角成となれば『角を成る』も達成できるし、しかも上手の守り崩しながらの成り込みなので、単に▲3三角成と角を成るだけの手よりもずっと効率が良い。
また『攻め駒を玉に近づける』に照らして考えれば、「4四→3三→5一」の動きより「4四→5三」のほうが、結果的に最短距離で上手玉に迫れている。
手合いが進んだことで、『方針』に関する考え方も、徐々に応用的になってくる。
小ミスがあったとはいえ、元の局面が圧倒的優勢だったので大勢に影響はない。
9図から、上手は△2八とと引いて次に△3八銀などを狙ったが、そんなことをしている場合ではなかった。
俗に▲6一金と張り付く手が決め手。
これで上手に受けがなくなっている。
9図では粘るなら△6一銀と埋めるしかなかったが、それこそ▲3三と△2八と▲4三と(E図)と『近づけ』れば受けがない。
と金は常に最強の攻め駒だ。
六枚落ち・八枚落ちで攻め手に迷った時は、大抵の場合と金攻めが最善・最速となる。
最後は上手の反撃を見切って素早く寄せ切った。
本局は六枚落ち下手の勝ち方として、ほぼ完全に理想的な指し回しだった。
疑問手があったのは8図~9図だけ。
それ以外の手は全て最善手である。
読者の中に、今まさに六枚落ちを勉強中という人がいたら、ぜひ本局を盤に並べて味わって欲しい。
特に注目して欲しいのは、下手が仕掛けた2図から攻めが完全に決まる7図まで、実に25手もの手数が掛かっていること。
最終的には下手が攻め切れるのだが、上手が全力を尽くして粘るとこれぐらい長引くことを知っておいて欲しい。
正しく攻めているはずなのになかなか上手が倒れてくれないと、本当にこの攻め方で合っているのかと、不安になるかもしれない。
しかし掛かる手数の目安を知ることで、自信を持って指せるようになるだろう。