003:利きで制圧する
本当にうまくいく?
前回の棋譜では「3つの方針」に従って指し手を決めていけば、上手玉を詰ますことができると説明しました。
しかし、そう簡単に勝てるのかと、疑問に感じた人もいるでしょう。
上手は下手の狙いを看破したうえで玉を逃がそうとします。
下手は本当に上手玉を追い詰めることができるのでしょうか。
前回とは異なる実戦例を見てみましょう。
手合割:その他
上手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・v玉 ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ 馬 ・ ・ ・ ・ ・ 龍 ・|八
| ・ 馬 ・ ・ ・ ・ ・ 龍 ・|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし
上手番
△6五玉 ▲6七馬 △7五玉 ▲7七馬上 △6五玉 ▲2五龍
△5四玉 ▲5九龍 △6四玉 ▲5六龍 △7四玉 ▲5五龍寄
△7三玉 ▲8五馬 △8三玉 ▲9五馬上 △7二玉 ▲5三龍
△8二玉 ▲7六龍 △8一玉 ▲7三龍上 △9二玉 ▲6二龍右
△9一玉 ▲7一龍左
まで26手で下手の勝ち
利きを可視化
初手からの指し手
△6五玉 ▲6七馬(1図)
上手は△6五玉と、前回とは違うマス目に玉を動かしました。
もし下手が前回と同じく▲6六馬と指すと、△同玉と馬を取られてしまいます。
今回は▲6七馬と指しました。
これなら駒を取られることはありませんし、「攻め駒を玉に近づける」方針も満たしています。
今回は下手の駒が利いているマス目に色を塗っていきます。
1図中、赤く塗ったマス目が6七馬の利きを表しています。
上手玉はこの赤いマスに立ち入ることができません。
例えば1図から上手が△7六玉などと赤マスに踏み込む手を指すと、▲同馬と取って下手の勝ちとなります。
1図からの指し手
△7五玉 ▲7七馬上(2図)
上手は赤マスを避けて△7五玉と指しました。
下手はもう1枚の馬を近づけます。
2図では6七馬・7七馬、2枚の利きを赤で示しました。
大駒2枚分の利きが、上手玉を強力に包囲していることがわかります。
大駒の制圧力
2図からの指し手
△6五玉 ▲2五龍(3図)
3図では6七馬・7七馬・2五龍、3枚分の利きを赤マスで示しました。
上手玉自身がいるマス目も赤マスに含まれています。
つまり「王手」が掛かっているということです。
玉は周囲4つの白マスのうちどこかへ移動して王手を逃れなければなりません。
(ただし4マス中、1マスは王手を逃れられません。興味がある人は考えてみてください)
3図からの指し手
△5四玉 ▲5九龍(4図)
4枚目の攻め駒を活用します。
4図では4枚の大駒すべての利きを赤で示しました。
81マス中、47マス(5九を含む)が赤マスです。
つまり盤全体のうち、半分以上のマス目が下手の勢力下にあることがわかります。
大駒4枚による制圧力はすさまじいですね。
将棋盤は一見広いように見えて、実は上手玉にとって安全なマス目は少ないのです。
利きが玉を押しこむ
4図からの指し手
△6四玉 ▲5六龍 △7四玉 ▲5五龍寄(5図)
5図からの指し手
△7三玉 ▲8五馬 △8三玉 ▲9五馬上(6図)
6図からの指し手
△7二玉 ▲5三龍 △8二玉 ▲7六龍(7図)
7図からの指し手
△8一玉 ▲7三龍上 △9二玉 ▲6二龍右(8図)
8図からの指し手
△9一玉 ▲7一龍左(9図)
まで26手で下手の勝ち
長手数一気に進めましたが、下手は「攻め駒を玉に近づける」「すべての駒を使う」という方針通りに指し進めています。
その効果は絶大です。
4図から8図まで、大駒4枚分の赤マスが、上手玉を追い詰めていく様子がはっきり表れています。
画像を並べて、パラパラ漫画のように見るとわかりやすいでしょう。
あとは玉を盤の端まで追い詰めた状態で王手をかければ、すなわち「詰み」となります。
馬龍将棋において、下手には大駒4枚の攻め駒が与えられています。
これは玉1枚を詰ますという目標に対して、そうとうな過剰戦力です。
わざと玉を逃がすように指すのでもない限り、上手玉は自然と盤の端へと追いつめられていくはずです。
相手玉の近くに攻め駒を配置することで「制圧」すること。
これは馬龍将棋に限った話ではなく、将棋における「攻め」の根幹とも言える考え方です。
今のうちから何度も練習して、コツをつかんでおきましょう。
「詰み」の前に「寄せ」
馬龍将棋では「玉を取ろう」「玉を詰まそう」という考え方をしません。
代わりに「玉を端へ追いつめる」ことを目標とします。
盤の中央にいる玉を詰ますことは難しいので、まず「詰ましやすい場所」へと玉を追い詰めるのです。
「玉を詰ますこと」と「玉を詰ましやすくするための手続き」を総称して「寄せ」と呼びます。
「詰み」を考える前に「寄せ」を考える必要がある。
この目的意識を身につけてください。