六枚落ち実戦 万全の状態から仕掛ける

ずいぶんと久しぶりの更新。
更新する気はあるのだが、いざ記事にするとなると文章をまとめるのに苦労していた。
今回は粕屋町将棋会でおこなった六枚落ちの棋譜を解説する。

手合割:六枚落ち
下手:K君
上手:私

△3二金    ▲7六歩    △7二金    ▲4八銀    △2二銀    ▲6八玉
△4二玉    ▲7八玉    △6二銀    ▲5八金右  △6四歩    ▲6八銀
△6三銀    ▲2六歩    △7四歩    ▲2五歩    △8四歩    ▲3六歩
△7三金    ▲1六歩    △5四歩    ▲2四歩    △同 歩    ▲同 飛
△2三歩    ▲2八飛    △5三玉    ▲5六歩    △4四歩    ▲7七銀
△5二銀    ▲6六歩    △4三銀    ▲7九角    △3四歩    ▲3七桂
△8五歩    ▲1五歩    △8四金    ▲1四歩(1図)
△同 歩    ▲同 香
△7五歩    ▲同 歩    △同 金    ▲7六歩    △7四金    ▲1二香成
△6五歩    ▲同 歩    △同 金    ▲6七金(2図)
△6四金(3図)
▲2二成香
△同 金    ▲2五桂    △6六歩(4図)
▲5七金    △2四歩(5図)
▲1三銀
△2三金    ▲2四銀成  △同 金    ▲3三桂成  △2五歩    ▲6五歩
△同 金    ▲6六銀    △7六金(6図)
▲7七歩    △6六金    ▲同 金
△3五歩    ▲3七銀    △7四銀(7図)
▲6五歩    △4五歩    ▲3五歩
△6一香    ▲4三成桂  △同 玉    ▲3四金    △同 金    ▲同 歩
△6五香    ▲同 金    △同 銀    ▲2五飛    △3四玉(8図)
▲2四飛
△4三玉    ▲4四銀    △5二玉    ▲2三飛成  △6二玉    ▲5三龍
△7二玉    ▲7三金    △8一玉    ▲8四香    △9一玉    ▲8二香成
まで102手で下手の勝ち

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下手は小学6年生のK君。
将棋歴はそろそろ5年になるくらいで、まさしく中級者と言えるレベルだ。
初心者向けの棋書に書かれているような要素は一通り理解しているので、それを実戦で活かすための腕力を身につけていってほしい頃合である。

1図は下手が▲1四歩と仕掛けた局面。
△同歩▲同香となれば1三の利きは▲角・香vs△銀となり、突破に成功する。
「数の攻め」を正しく実行できることが六枚落ちに挑む最低ラインと言って良いだろう。

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1筋を受ける手段のない上手は反撃に出る。
単なる歩交換にすぎないが浮き駒の5六歩を狙っており、下手にとっては少し気持ち悪いところだろう。
下手は▲6七金と歩取りを受けた。

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ここが本局一番のポイントとなる局面である。
下手から6六歩と打たれる「前」に△6四金と引くのが上手の勝負術だ。
この手の狙いは何か?

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「叩きの歩」がヒット。
▲同銀ならば△6五歩▲7七銀△6六香と上手の猛攻を浴びることになる。

3図では▲6六歩とキズをふさぐ手が正着だった。
しかし3図での▲6六歩は、2図での▲6六歩と比べて金当たりにならない分だけ、下手にとって選びにくい手となっている。
仮に2図で上手が別の手を指したなら、K君は▲6六歩と打っていただろう。
それを間違えさせたのが、すなわち「上手の勝負術」である。

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△6六歩を取ると上手の狙い通り。
しかし▲5七金とよけた手は悪手だった。
角筋が止まったので△2四歩の桂取りが受けにくい。
△6五桂の両取りもあるため、すでに無傷でしのぎきる手段は無くなっている。
直後の▲1三銀も悪手。
このあたりの手順、K君は明らかに慌てて指していた。

△6六歩に対しては、上手の狙いにはまるようでも▲同銀△6五歩▲7七銀△6六香▲同銀△同歩▲同金(A図)と、強く応接する手順がまさった。

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△6六歩の1手で拠点を作られ、陣形を歪まされる損と比べれば、銀香交換を受け入れる方が良い。
というより、もともと2二で駒得していたのでA図では損得がなくなっている。
上手玉は下手以上に薄いので、むしろ上手玉の方が危険になっているくらいである。
A図以下△6五歩▲6七金△6六銀ならば▲6八金引△2四歩▲6七歩で良い。

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金銀の動きは複雑なため見落としやすい。
経験を積んで慣れていくしかないだろう。

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次に△6一香と打つ攻めを狙っている。
手掛かりを作るために置くだけという素朴な手段ながら厳しい。
棋書から得られる知識だけでは学びにくいタイプの手だろう。
ここもあらかじめ▲6五歩と受けておきたかったかもしれない。

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△3四玉はさすがに強気すぎた。
下手は大駒に取りに来られると慌てやすいもの、その心理を突く意味だったが▲2二飛成とされていれば受けなしだった。
もちろん本譜の寄せも的確で非常に良い。
8図では△6六桂などから王手の続く筋が生じており、4図以降、少しずつ重ねてきた疑問手の分だけ紛れていると言える。
こうした自玉の安全度が気になる状況から勝ち切ったのは、終盤力がある証拠だ。

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とはいえ、紛れさせない勝ち方ができるならばそれが理想である。
紛れさせないためにはどうすべきだったか?
3図での▲6六歩や、4図での▲6六同銀など、単に本譜で指せなかった正着を挙げることは簡単だ。
だがそれらは、これからたくさんの実戦経験を積んで読みの力をつけることで、徐々に修正されていくという性質のものである。
今すぐに修正するべき点はもっと前にある。
すなわち1図で▲1四歩と仕掛ける前に▲6七金と上がっておくことだ。
さらに言えば▲8八玉~▲7八金(B図)と、もう一路深く玉を囲い、万全の態勢を築いてから▲1四歩と仕掛けるのが良いだろう。
A図や8図において「7八玉・6九金」→「8八玉・7八金」と変わっていれば、本譜よりもずっと指しやすかったはずだ。
玉を堅く囲えば、それだけ受けやすくなる。
難しい局面で正しい手を指す能力も大切だが、難しくない局面を作る技術も同じくらい大切だ。
駒落ちでは下手が駒を渡さない限り、上手から仕掛ける手は無いと考えて良い。
平手と比べて、駒組みの途中の仕掛けを警戒する必要が無く、十分な駒組みをおこなう余裕があるのだ。
有効活用しよう。