十枚落ち実戦 弱点を発見する
駒落ち将棋を指導の一手段として用いるならば、将棋の内容から指導すべき個所を見つけ出さなければならない。
十枚落ちの棋譜から、下手の「弱点」をさぐってみよう。
手合割:十枚落ち
下手:Y君
上手:私
△4二玉 ▲7六歩 △5四歩 ▲2六歩 △6四歩 ▲2五歩
△3二玉 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △7四歩 ▲5四飛
△4二玉 ▲6四飛 △5三玉 ▲6一飛成 △5四玉 ▲3三角成
△4四歩 ▲4一龍 △8四歩 ▲4四龍 △6三玉 ▲5一馬
△8五歩 ▲5五龍 △1四歩 ▲5二馬 △7三玉 ▲6五龍
△1五歩 ▲5一馬(1図)
△8三玉 ▲8五龍 △8四歩(2図)
▲6一馬
△7三玉 ▲6五龍 △9四歩 ▲6二龍
まで40手で下手の勝ち
今回の対局も粕屋町将棋会でおこなったものである。
下手はY君。
対局をおこなった時点で小学4年生だった。
棋歴はまだ短く、基礎が身についていない部分も多いのだが、その身についていない基礎の中にちょっと気になる箇所がある。
1図の▲5一馬は5二にいた馬を5一に動かしたもので、これでは駒の進む方向がおかしい。
正しくは▲7四馬or▲7四龍と、攻め駒を玉に近づける方向で王手をかけるべきところだ。
2図は▲8五龍の王手に対してわざと「無駄合い」をした局面。
ここでもY君は間違えてしまう。
図から▲6一馬△7三玉▲6五龍と進んだ。
ゴールは目の前なのに、突然Uターンして引き返すような手順である。
どうもY君は「体当たり」が苦手なようだ。
十枚落ちでなければ上手に粘られて、そのまま負けていてもおかしくなかっただろう。
8四には下手の龍と馬が両方利いているため、この歩は▲8四同龍or▲8四同馬と取ってしまえば良かった。
過去の記事でも書いたが、「体当たり」を使わず、離れた位置から掛ける王手のみで上手玉を寄せ切るのは無理がある。
本局のミスはこの2箇所だが、他の将棋でもY君はこのような感じのミスを繰り返し、場合によっては上手玉を取り逃がしてしまうこともあった。
まだ初心者なのだから失敗をするのは当然とはいえ、Y君の全体的な上達具合と比べると「体当たり」に関する部分だけが弱点として取り残されている感じだ。
根本的に「駒をぶつける手を怖がっている」ようにも見える。
「怖がる」とは「危険を認識する」事。
それ自体は将棋においても欠かせない感性なのだが、Y君の場合それが、危険の先にある可能性について読みを巡らせることなく、反射的に引き返してしまうような姿勢となって表れているように思われる。
「駒をぶつける手」とは、すなわち「駒を取られるリスクを承知の上で踏み込む手」である。
これは「駒を取られてはいけない」という価値観から、もう一歩進んだ考え方であり、それなりに高度な考え方である。
Y君がこの先上達していくためには、単に相手の駒を怖がるばかりでなく詰め将棋や棋譜並べを通じて「駒をぶつける手」に慣れ、怖さを乗り越えていく必要があるだろう。