十枚落ち 方針を使った棋譜検討
十枚落ちの『方針』に若干の変更を加えた。
新版は下記の通りである。
勝つための方針
(1)『攻め駒を玉に近づける』
(2)『2対1で攻める』
(3)『玉を端に追い詰める』負けないための方針
(4)『歩がぶつかったら取る』
(5)『金銀で守る』
『歩がぶつかったら取る』の項目を追加し、『勝つための方針』と『負けないための方針』に分割。
方針(3)『玉を追う方向を決める』を『玉を端に追い詰める』に変更した。
意味するところは同じ。
こちらの表現の方が直感的にわかりやすくなっている、と思う。
今回はこの『5つの方針』を用いて実戦譜の検討を行なう。
開始日時:2016/12/04
手合割:十枚落ち
下手:下手
上手:上手△4二玉 ▲9六歩 △4四歩 ▲9七角 △7四歩 ▲4八飛
△4三玉 ▲4六歩 △5四玉(1図)
▲4五歩 △同 歩(2図)
▲5六歩
△9四歩 ▲5五歩(3図)
△4四玉 ▲7六歩 △8四歩 ▲8六角
△8五歩 ▲7七角(4図)
△6四歩 ▲5四歩(5図)
△同 玉 ▲3三角成
△8六歩 ▲3二馬(6図)
△5五玉 ▲5八飛 △4四玉 ▲2二馬
△4三玉 ▲8六歩 (7図)
△7五歩 ▲同 歩 △6五歩 ▲6六歩(8図)
△同 歩 ▲同 馬 △4六歩 ▲6五馬(9図)
△4四玉 ▲6四馬
△4七歩成(10図)
▲5三飛成 △4五玉 ▲5五龍 △3四玉 ▲7七桂(11図)
△7六歩 ▲6五桂 △7七歩成 ▲5四龍(12図)
△4四歩 ▲5三桂成
△6六歩 ▲4三成桂 △2四歩 ▲3三成桂 (13図)
△同 玉 ▲5五龍
△6七桂(14図)
まで61手で上手の勝ち
終局まで61手、そのうち30手が下手の着手である。
この30手全てを『5つの方針』に関して正しい指し方かどうかを考え、それぞれ○、×の評価をつけていく(一部△評価をつけることもある)。
初手から順に見ていこう。
▲9六歩 (1)○
▲9七角 (1)○
▲4八飛 (1)○
▲4六歩 (1)○
▲9六歩~▲9七角の2手、▲4八飛~▲4六歩の2手は、それぞれ角、飛を活用する手順であり、方針(1)に沿っているので○と評価できる。
こんな具合に1手ずつ検証していく。
▲4五歩 (2)×
1図の時点で、4五の利きは「2対2」であって「2対1」ではない。
つまり▲4五歩は方針(2)に反する攻め方なので×と評価する。
この悪手が原因で下手は1歩損してしまった。
▲5六歩 (1)○
▲5五歩 (2)△
▲5六歩は方針(1)に沿っているので○、これは問題ない。
だが▲5五歩は少しややこしい事情がある。
と言うのも、仮に上手が△5五同玉とこの歩を取ったとすると、そこで▲5三角成(A図)があるからだ。
A図となれば歩損を取り返しながら馬を作っており、▲5五歩は好手だったと言える。
しかし方針に忠実に考えれば、5五の利きが「1対1」であって「2対1」ではない状態で攻めているのだから、方針(2)に反するので×と評価するべきだ。
このような「方針には反するが好手である」という手には△という評価をつけておく。
好手なら○評価でもいいように思われるが、下手を持っていた対局者が正しい意図を理解していたかどうかという問題がある。
「▲5五歩△同玉▲5三角成まで読んで▲5五歩と突いた」
「ただ勢いで歩を捨てただけ」
前者なら立派な手と評価できるが、後者では評価できない。
ゆえに○ではなく△とする。
▲7六歩 (1)○
▲8六角 (1)○
▲7七角 (1)○
3つとも上級者目線ではいまいちパッとしない手だが、一応それぞれ方針(1)に沿っていると言えなくもない。
よって○。
▲5四歩 (2)△
▲5四歩は3図の▲5五歩と似た理由で△とする。
方針(2)に反するものの、次の▲3三角成まで含めて考えれば立派に成立している。
▲3三角成 (1)○
▲3二馬 (1)× (4)×
▲3三角成はもちろん○だ。
しかし続く▲3二馬は、同時に2つの方針に反している。
まず玉に近づく手ではないので方針(1)に反する。
そして△8六歩と突かれて歩がぶつかっている時に▲同歩以外の手を指したので、方針(4)にも反する。
△8六歩の局面は、次に△8七歩成のと金づくりが生じており非常に危険な状態。
まずは▲同歩と取り、と金づくりを防ぐことを最優先にしたい。
▲5八飛 (1)○ (4)×
▲2二馬 (1)× (4)×
▲8六歩 (4)○
▲8六歩でやっと手を戻した。
△8六歩と突かれてから放置すること3手。
その3手が王手→王手→王手の連続だったため、△8七歩成とと金を作られる最悪の事態は回避できたものの、危なっかしいことこの上ない。
平手ならともかく、十枚落ちにおいてリスクを抱えたままの攻めは避けるべきである。
▲同 歩 (4)○
▲6六歩 (2)○ (1)×
▲7五同歩は方針(4)に沿っているので○。
と金を作られる危険がなくとも、初心者のうちは歩がぶつかったらまず取る手から考えるようにしてほしい。
▲6六歩は方針(2)に関しては○。
しかしこのあと△同歩▲同馬と進むと馬が玉から離れてしまうので方針(1)に関しては×とする。
▲同 馬 (4)○
▲6五馬 (1)○ (5)△
▲6六同馬は「ぶつかった歩を取る手」ではないが「自分からぶつけた歩を回収する手」なので、方針(4)に沿っていると考えてよい。
馬が玉から離れるという方針(1)に反する要素は前手▲6六歩に関連付けて評価したので、こちらには記載しない。
▲6五馬は上手玉に近づく手なので方針(1)に関しては○。
ただしここは△4七歩成のと金づくりを受ける手(▲3八金など)を優先すべき局面なので方針(5)には反している。
▲6五馬でも4七を受けることはできているが、この馬は受けではなく攻めに使いたい駒。
攻めのために馬が動くと4七への利きも消えてしまうため、やや不十分な受け方と言える。
△と評価しておく。
▲6四馬 (2)○ (5)×
前述の通り、△4七歩成を許してしまった。
攻めの面では5三を「2対1」狙っており大正解なのだが、守りの面では失敗である。
▲5三飛成 (1)○ (2)○
▲5五龍 (1)○ (2)○ (3)○
▲7七桂 (1)×
▲5三飛成~▲5五龍はとても良い手だ。
玉を4筋→3筋→2筋と追い詰めていく狙いも見えるので方針(1)、(2)、(3)のすべてに関して○といえる。
しかし▲7七桂は玉から遠すぎるので方針(1)に関して×。
代えて▲5四馬~▲4四馬や▲5三馬~▲3五龍とするのが正しい迫り方である。
▲6五桂 (1)○ (4)○
▲5四龍 (1)× (2)× (3)×
△7六歩と桂取りに打たれた時点で、だいぶ下手が勝ちにくい形勢になってしまっている。
とはいえ▲6五桂そのものは方針に照らせば○評価である。
続く▲5四龍は完全に×評価。
「玉に近づかない王手」「駒1枚で攻めている」「玉を逃がす」と、勝つための方針(1)、(2)、(3)すべてに反している。
▲5三桂成 (1)○
▲4三成桂 (1)○ (2)○
▲3三成桂 (2)×
成桂も5三まで来れば立派な攻め駒になったと言える。
しかしその矢先に▲3三成桂とタダ捨てしてしまった。
非常にもったいないし、もちろん方針に関しても×評価。
ちなみに▲4三成桂とする直前の局面では次に△6七歩成が生じているのだが、このと金作りは最早どうあがいても受からない状況である。
ゆえに、受けなかったことを理由に方針(5)に関して×、という評価はしないことにする。
▲5五龍 (1)×
▲5五龍はまったくどの方針にも沿っていない。
ついさっき渡したばかりの桂を打たれて、下手負けである。
本局の評価は以下の通りになった。
▲9六歩 (1)○
▲9七角 (1)○
▲4八飛 (1)○
▲4六歩 (1)○
▲4五歩 (2)×
▲5六歩 (1)○
▲5五歩 (2)△
▲7六歩 (1)○
▲8六角 (1)○
▲7七角 (1)○
▲5四歩 (2)△
▲3三角成 (1)○
▲3二馬 (1)× (4)×
▲5八飛 (1)○ (4)×
▲2二馬 (1)× (4)×
▲8六歩 (4)○
▲同 歩 (4)○
▲6六歩 (2)○ (1)×
▲同 馬 (4)○
▲6五馬 (1)○ (5)△
▲6四馬 (2)○ (5)×
▲5三飛成 (1)○ (2)○
▲5五龍 (1)○ (2)○ (3)○
▲7七桂 (1)×
▲6五桂 (1)○ (4)○
▲5四龍 (1)× (2)× (3)×
▲5三桂成 (1)○
▲4三成桂 (1)○ (2)○
▲3三成桂 (2)×
▲5五龍 (1)×
×評価のついた手が修正すべき箇所である。
全ての手を○評価にできるようになれば十枚落ちは卒業だ。
十枚落ちはハム将棋などでもプレイできるので、自分の棋譜を検討する際にも『5つの方針』を活用してほしい。