九枚落ち 攻めの効率

九枚落ちの実戦を見ていこう。

手合割:その他 
上手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v玉v金 ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし
上手番

△3二金    ▲9六歩    △4二玉    ▲5六歩    △4四歩    ▲5八飛
△4三金    ▲9七角    △5二玉(1図)
▲7五角    △3四歩    ▲9三角成
△6四歩    ▲8六歩    △4五歩    ▲8八飛(2図)
△1四歩    ▲8五歩
△5四金    ▲8四歩    △同 歩    ▲同 飛    △6五金    ▲8二飛成
△6三玉    ▲8三馬(3図)
△4六歩(4図)
▲7三龍    △5四玉    ▲7二馬
△4四玉(5図)
▲6二龍    △4七歩成  ▲6三馬    △5七と    ▲5三龍(6図)
△3五玉    ▲4三龍    △5六金(7図)
▲4五龍    △2四玉    ▲5四馬
△4六歩    ▲4三馬(8図)
△4七歩成  ▲3四龍    △1三玉    ▲3三馬
△5八歩(9図)
▲同金右    △同と左    ▲同 金    △同 と    ▲同 玉
△5七金打  ▲6九玉(10図)
△6七金上  ▲2三馬
まで58手で下手の勝ち

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下手が5筋に狙いを定める動きに対して、上手は△4三金と構えて対抗する。
1図から▲5五歩△7四歩▲5四歩のように5筋攻めを敢行しても、△5四同金(A図)と取られてしまう。

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これは上手の受けが成功した形だ。
5四の利き数が「飛・歩」vs「金・歩」の2対2になっているので、受けが成立する。
5筋狙いがうまくいかないならば、下手はどうするか。

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5筋が駄目なら他の筋を攻めれば良い。
というわけで、▲7五角、▲8八飛と、目標を5筋から9筋、8筋へと変更したのが好着想だ。
十枚落ちから守り駒が1枚増えたぐらいでは、まだまだ陣形全体を守るには足りない。
大駒の機動力を活かせば、守りの手が届かない箇所を突くのは容易である。

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飛、角を成り込んだうえで▲8三馬。
『攻め駒を玉に近づける』、『2対1で攻める』、2つの方針に沿った、良い手である。

ここまでは九枚落ち下手として及第点の指し方ができている。
問題はここからだ。

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まずこの△4六歩は、落ち着いて▲同歩と取り返すほうが良かった。
この4六歩は、のちに△4七歩成とと金になり、下手玉に対する脅威となる。
上手のと金づくりを防ぐには『歩がぶつかったら取る』のが最も基本的な予防策である。

ここで上手に攻めの手段を与えてしまったがために、本局は「上手の攻め駒が下手玉を仕留める」のと「下手の攻め駒が上手玉を仕留める」のと、どちらが早いかという「攻めの速度競争」を意識しなければならなくなった。
以降の手順は「攻めの速度」という観点から、細かく見ていこう。

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5図から6図までの手順にやや問題がある。
6図は、5三のマス目で『2対1』の攻めを行なっている局面だが、よく考えてみよう。
5三のマス目を狙うなら、▲6二馬(B図)がまさる。

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5図から6図までの手順だと、下手は5三を攻めるのに▲6二龍~▲6三馬~▲5三龍と3手を費やしている。
しかしB図なら▲6二馬~▲5三龍の2手で済む。
B図のほうが効率が良く、速い攻め方なのだ。

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7図~8図の手順も効率が悪い。
本譜は▲4五龍~▲5四馬~▲4三馬として3四を狙う形を作っているが、代えて▲4五馬(C図)がまさる。

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以下△2四玉▲3四馬と上手に手番を渡すことなく攻めが続いていた。
本譜と比べて2手節約できた計算になる。

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5図~8図で下手の攻めが遅れてしまった分だけ、上手にも攻めの手番が回ってくる。
その結果が9図のと金軍団である。

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本局の場合かろうじて詰みは無く、なんとか1手差で下手の勝ちとなった。
しかしB図やC図のような効率の良い攻めができていれば、ここまで自玉が危険になる前にわかりやすく勝ち切っていたはずである。
あるいは、そもそも上手にと金を作らせなければ「攻めの速度競争」も発生せず、多少遅い攻めでも問題なかった。

九枚落ちは本来、もっとすっきりした勝ち方ができなければならない。
「上手に攻め駒を与えたこと」
「効率の悪い攻め方をしたこと」
2つの小ミスが重なって、ここまでギリギリの戦いとなったのである。