十枚落ち そそっかしい将棋

十枚落ちの将棋を見ていく。
本局の下手は、どちらかと言えば体を動かす遊びの方が好きなんじゃないかと思わせるような、やんちゃな小学3年生。
当然のごとく、かなりの早指しである。

手合割:十枚落ち

△4二玉    ▲9六歩    △9四歩    ▲9七桂    △8四歩    ▲7六歩
△5四歩    ▲6六角(1図)
△6四歩    ▲8四角    △3四歩    ▲7三角成
△5三玉    ▲2六歩    △5五歩    ▲2五歩    △5四玉    ▲2四歩
△同 歩    ▲同 飛    △6五玉(2図)
▲3四飛    △5六歩    ▲6四馬
△7六玉    ▲5六歩(3図)
△8七玉    ▲5四馬    △7六歩(4図)
▲7八銀
△8六玉    ▲6四馬    △9六玉    ▲3五飛    △7七歩成(5図)
▲7四馬
△8六玉    ▲8五飛(6図)
△9六玉    ▲7五飛    △8六玉    ▲7七銀(7図)
△8七玉    ▲6五馬    △9六玉    ▲7四馬    △8七玉    ▲6八金
△7六歩(8図)
▲同 銀    △8八玉    ▲8五飛    △9九玉    ▲7八金
△9五香(9図)
▲9六歩    △同 香    ▲8八金    △9七香成  ▲同 金
△8八歩    ▲8七銀(10図)
△8九玉    ▲7五飛    △9五桂    ▲9八銀
△9九玉    ▲7九飛    △8九歩成  ▲同 飛
まで70手で下手の勝ち

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▲9七桂~▲8五桂の狙いを封じられても、すぐさま角成り狙いに切り替える。

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早々に玉を中段へと繰り出す指し方は、それなりに十枚落ち経験を積んだ下手に対してのみ用いる。
通常は△4二玉~△3二玉と飛角の成り込みを防ぐために玉を使うが、それを放棄し、7、8筋方面への入玉を目指す。
下手はこれに対応する技術を身につけなければならない。

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▲3四飛では落ち着いて▲2二飛成と龍を作っておくべき。
上手玉の早い動きに惑わされたか、『龍と馬を作る』の基本方針を忘れている。
上手の術中である。
本譜はこのあと、飛車が龍に成っていないためにややこしくなっている局面が続出する。

ただし△5六歩を放置せずしっかり▲5六歩と手を戻したのは見事。
△5七歩成を許していたら、おそらく下手が負けていただろう。

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▲5四馬は『攻め駒を玉に近づける』に反する。
代えて▲6五馬とする方が上手玉への圧力が高い。

あるいは、玉がこの位置まで来ている状況では、▲7八金と自陣の駒を攻め駒として使うことも可能である。
以下△7六玉、△9六玉のいずれに対しても▲8八銀(A図)~▲8七銀とすれば寄りとなる。

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本譜は▲7八銀としているが、これは8八に隙が生じるので▲7八金に劣る。
一応△8八玉には▲5五馬で詰むが、この詰みを見越して▲7八銀を選んだというわけでもないだろう。

5図の△7七歩成は▲同銀なら△8七玉と入り込む手が生じる。
これも▲7八金でなく▲7八銀したために生じた抵抗である。

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飛車が龍になっていれば詰んでいたはずの王手。
……と言うか、代えて▲8五馬とすれば詰んでいる。
そそっかしいと言わざるを得ない。

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これまた▲8五馬とすれば詰んでいる。
実にそそっかしい。

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ここは▲7六同飛と飛車で取っておけば、いよいよ上手は手段に窮していた。
あと1手で決まるはずの局面で、ことごとく正解を逃し続けている。
そそっかしい事この上ない。

なお▲8八歩は打ち歩詰めの禁じ手。

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駒落ちで上手に駒を取られたら、大抵はこのままずるずると負けてしまうものである。
しかし本局の下手はどういうわけか持ちこたえる。

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▲8八金~▲9七同金の受けで、意外と上手玉は粘る手段が限られている。
そして図の▲8七銀は好手。
本人が意図していたかは不明だが、△8九歩成には▲9八金の1手詰めを見ている。

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幸運にも詰んでいる。
本来、成っていない生飛車のままで玉を詰ませるのは難易度が高い。
隣り合う複数のマス目へ同時に利かせることができないためだ。
正確に読む能力を身につけた上級者なら造作もないことだが、それならそれで6図の時点できっちり詰ませるに違いない。

  • 『龍と馬を作る』
  • 『攻め駒を玉に近づける』
  • 『2対1で攻める』

3つの方針は、3つ全てを実行してこそ効果を発揮する――私はそのように作った。
生飛車、生角のままでは、玉に近づけたところですり抜けられてしまうし、あるいは3枚以上の攻め駒が必要になるかもしれない。
無論、方針から外れた指し方にも、下手が勝ちうる方法が隠れてはいるのだが、それらの勝ち方が実現できる棋力なら、3つの方針通りに指して勝つ方がなおさら簡単だろう。
本局の勝ち方はあくまで偶然にすぎない。
当ブログは、駒落ちを勝つために必要な考え方を、あくまで理論立てて解説することを目指しているので、本局のような指し方は推奨しないものとする。

もっとも、人によっては「飛車と角は成った方が良い」と理屈で学ぶよりも、本局のような実地体験を通じて、成っていない生飛車では詰ましにくいということを体感するほうが理解が早い場合もある。
まあ感覚派とでも言おうか。
一応、こういう上達のしかたをする初心者もいるということで。