九枚落ち 上手の中央突破戦術
手合割:十枚落ち
△4二玉 ▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △5四歩 ▲1一角成
△5三玉 ▲2五歩 △4四歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛
△5五歩 ▲2三飛成 △5四玉 ▲2一馬 △6四玉 ▲7七桂
△7四歩 ▲3一馬 △5四玉 ▲5三龍 △4五玉 ▲1三馬
△8四歩 ▲4六歩(A図)
まで26手で下手の勝ち
A図は前回の将棋から約1か月後に行なった十枚落ちの終局図。
前局と比べて、明らかに局面を見る視野が広がっている。
最後の突き歩詰めも、着手する直前に「あ、もしかして」とつぶやいて指した手だった。
適当に王手を掛けたわけではなく、▲4六歩で詰んでいることをきちんと認識できていたということであり、その点でもはっきり成長している。
この勝ち方ならば十枚落ちを卒業させて、九枚落ちへと進めても良いだろうと判断した。
手合割:その他
上手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v玉v金 ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし
上手番△3二金 ▲7六歩 △5四歩 ▲2六歩 △5二玉 ▲6六角
△6四歩 ▲9三角成 △4四歩 ▲7一馬 △4三玉 ▲2五歩
△3四玉 ▲3八銀(1図)
△8四歩 ▲2七銀 △1四歩 ▲1六歩
△5五歩 ▲1七香 △4三金 ▲1八飛 △5四金 ▲2六銀(2図)
△5六歩 ▲同 歩 △6五金(3図)
▲1五歩 △同 歩 ▲同 香
△5六金 ▲1三香成 △4七金 ▲6一馬 △4五玉(4図)
▲2三成香
△5六歩(5図)
▲1三飛成 △5七歩成 ▲7二馬 △5六玉 ▲8三馬
△6五歩 ▲4八歩 △5八歩(6図)
▲同金左 △同 と ▲同 金
△同 金 ▲同 玉 △5七金 ▲6九玉 △6七金 ▲1六龍
△5八金打
まで55手で上手の勝ち
そんなわけで続けて九枚落ちを行なった。
こちらが記事の本題。
▲6六角~▲9三角成~▲7一馬と活用する手順は通い慣れたもの。
これは上手としても防ぎようがない。
続いて▲2六歩~▲2五歩と飛車先を伸ばす手には、△3四玉と歩交換を阻止する。
ここまでは十分合格点の指し方。
しかしこの後の展開まで考えると、もう1手▲5三馬と近づけておく方が、より下手にとって負けにくい将棋になっていたかもしれない。
▲2七銀~▲2六銀の棒銀、▲1六歩~▲1七香の雀刺し。
どちらも習いある攻め方だが、この局面で両方を同時に用いようとするのは、やや力み過ぎのきらいがある。
いま上手玉は3四にいるので、1筋の受けには役立たない。
つまり金のみの守備を突破すれば良いので、棒銀か雀刺しのどちらか片方だけで十分だった。
▲1七香を見て、上手の金が不穏な動きをし始める。
下手は必要以上の攻撃力を準備しようとしているので、そのぶん攻撃開始が遅くなる。
そこをとがめるつもりだ。
上級者向けに補足しておくと、▲1六歩では▲3六銀(B図)とすれば上手は困っていた。
△5四金は▲6一馬、△4五歩には▲3五銀で詰む。
仕方ないので△4二金と引くぐらいだが、こうなると上手から攻勢に出る手段がなくなるので▲1五歩からの攻めが間に合う。
下手は攻撃陣を完成させたが、じつは上手もすでに攻撃準備が完了していた。
下手の1筋攻めに先んじて、上手から△5六歩と仕掛ける。
下手にとっては予想外の速さだろう。
下手も1筋攻めを敢行するが、もう遅い。
すでに攻撃目標である上手玉は中段へと脱出しており、1筋を攻めても効果がないのだ。
上手の攻め駒4七金と下手玉との距離は2マス。
下手の攻め駒1三成香・1八飛・6一馬と上手玉との距離は3マス~4マス。
この事実だけでも、上手の攻めの方が速いことがわかる。
上手の攻めをけっこう嫌だなあとは思いつつも、どう対処すべきかわからないから、ひとまず予定通りに攻めよう。
下手の内心は大方そのような思考だったろう。
しかし上手の攻めは、下手が思う以上に鋭く、厳しいのだ。
上手はいったん下手陣に穴を空けてしまえば、あとは「垂れ歩」でいくらでも攻め駒を増産できるようになる。
こうなると上手の攻めを振りほどくことは困難だ。
一応▲5八歩と受ければまだ下手が残しているものの、指導対局としてはこうなった時点で勝負ありといえよう。
下手も遅ればせながら▲1三飛成、▲7二馬と上手玉を追うものの、攻め駒が玉から遠いままなので圧力不足である。
▲4八歩の抵抗もむなしく、△5八歩で寄りとなる。
▲4八歩では▲5八歩と受ければ、上手は4筋、6筋には歩が打てないので、今すぐの寄り筋はなかったものの、その場合上手は△6七と~△2八歩として遠巻きにじわじわと攻めてくる。
もはや下手からと金の重石を振り払うことは不可能なので、上手にとって急ぐ必要はない局面だ。
本局のように玉・金を素早く繰り出して、下手陣の中央突破を狙う攻め方は、駒落ち上手の常套手段である。
この攻めはどんな局面でも警戒し続ける必要がある。
一見下手がうまく攻めているように見えても、一瞬攻めが緩んだスキに上手玉がするすると中段へ逃げ出して、いつの間にか逆転しているといった展開は、駒落ちではよくある光景である。
次回は中央突破戦術に対抗する方法を説明する。
十枚落ちと比べて高度になるため、これさえ覚えておけば必ず勝てるというような端的な『方針』はまだ作れていないが、ある程度指針となる考え方を示したい。