九枚落ち 中央突破に対抗する

上手が下手陣の中央突破を狙ってきた場合の、下手の対抗策を見ていく。
題材は、前回の将棋から2週間後に行なったもの。
対局者も同じである。

手合割:その他
上手の持駒:なし 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v玉v金 ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし
上手番

△3二金    ▲7六歩    △4二玉    ▲3六歩    △5四歩    ▲3五歩
△5三玉    ▲3四歩    △4四歩    ▲3三歩成  △同 金    ▲3八飛
△3四歩    ▲4六歩    △4三玉    ▲4五歩    △同 歩    ▲3五歩
△同 歩    ▲同 飛    △3四歩    ▲4五飛    △4四歩    ▲9五飛
△5三玉    ▲9三飛成  △3五歩    ▲8三龍    △6四玉    ▲6六角
△3四金    ▲9三角成  △4五金(1図)
▲8四龍    △5三玉    ▲7一馬
△4三玉    ▲7三龍    △3六歩    ▲6三龍    △3四玉    ▲6一馬(2図)
△3五玉    ▲3三龍    △4六玉    ▲2五馬    △5七玉    ▲5八金右
△5六玉    ▲5三龍    △5五玉    ▲6八金上(3図)
△4六金    ▲5七金左(4図)
△同 金    ▲同 金    △5六金    ▲同 金    △同 玉    ▲5四龍
△6七玉    ▲5八龍(5図)
△7六玉    ▲4三馬    △6五歩    ▲7八龍
△6六玉    ▲6七金    △5五玉    ▲5六金打(6図)
△6四玉    ▲6五馬
△5三玉    ▲7三龍    △6三歩    ▲7五馬    △5四玉    ▲7四龍
△6四金(7図)
▲同 馬    △同 歩    ▲5五金打  △4三玉    ▲6三龍
△3四玉    ▲5四龍    △4七角    ▲4四金    △2五玉    ▲4五龍(8図)
△1四玉    ▲4七龍    △2四歩    ▲3二角    △2五玉    ▲4五龍
まで96手で下手の勝ち

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第一に意識すべきは『上手に自由を与えない』こと。
上手の攻め駒は金と玉のみ。
大駒を持つ下手と比べて、攻め脚そのものは遅くならざるを得ない。
下手が素早く攻めれば、上手の攻めが下手陣に到達する前に押し切ることも十分可能である。

本局では玉・金を迂回して飛車・角を成り込む指し方を選択した。
前局のように小駒を用いて金の守りを正面から突破する手法よりも、より素早く上手玉に迫れる。
ただし▲9五飛~▲9三飛成では▲7五飛~▲7三飛成とするほうが攻めが速かった。

余談ながら、▲3五歩~▲3四歩、▲4五歩のような歩の突っかけをきっちり使いこなしている辺りに、下手の成長が感じられる。

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成り込んだ後も、攻めの手を緩めない。
1図で最速の勝ちは▲7五馬△5五玉▲4八銀だと思われるが、▲8四龍~▲7三龍も基本に忠実で悪くない。
上手は下手の攻めに対応しなければならず、なかなか攻めの手を指せない。

なお1図に至る手順中▲9五飛に代えて▲7五飛としていたならば、以下△5三玉▲7三飛成△3五歩▲6六角△3四金▲9三角成△4五金▲7一馬△4三玉▲6三龍△3四玉▲6一馬(A図)となっていた。

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2図と比べて△3六歩の1手が入っていないので、△2四玉に▲2六歩で上部脱出を許すことなく寄せ切れる。
十分な速度と正確さを実現できるならば、それだけで上手の攻めを封じることができる。

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上手の駒が前に出ているようにも見えるが、この形では大したことない。
金と歩が逆形だからである。
本当なら上手は、歩のほうを前に出して金・玉はその後ろから着いていく形を作りたいのだ。
『守り駒より安い駒で攻める』のが攻めの基本。
金は攻め駒としては価値が高すぎて、下手の守り駒である金・銀と交換してもほとんど得にならない。
下手が龍・馬で圧力を掛け続けたことで、上手が満足な攻め形を作るのを阻止できたのである。

この辺りで突撃を食い止めるための防備を固めておきたい。
固めるタイミングがわかりにくければ、もっと早い段階で金銀を上がっておいてもまったく構わない。

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防備とは言うが、局面によってはむしろ下手の側から金銀をぶつけていく手が有効な場合もある。
上手の金は攻め駒でもあり、守り駒でもある。
したがって駒交換によって除去すれば、上手玉の守りを剥がしたとみなすことができるのだ。

本局では上手の攻撃能力が弱い形なので、金ぶつけが十分に成立している。

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竜を引き戻してしっかり受ける。
しかしまだ油断してはいけない。
たとえば5図から△6六玉に▲9六歩と1手緩むと、△5七金と打たれて上手の攻めが再開してしまう。

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持駒の金を打ちつけて分厚く押し返すのが良い手だ。
こうすれば上手玉を攻めると同時に、自玉の守りも強化されるので、はっきりと下手が指しやすくなる。
ここまでやる必要があるか?と疑問に思うかもしれないが、最初のうちはやりすぎなくらいでちょうどいい。
自玉の安全度を気にしながら戦うより、安全を確保したうえで寄せに専念するほうが圧倒的に間違えにくい。
攻めの手が完全に途絶えるまで、なりふり構わず思いっきり振り払おう。
力加減はもっと上達してから考えればよろしい。

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基本的には6図のような状況まで持ち込めば、下手が勝てる将棋のはずだ。
しかし本局では下手に見落としが出る。
△6四金と打たれて龍・馬の両取りが掛かってしまった。
十枚落ちでは、下手が駒をタダ取られしない限り上手に持ち駒が入ることはほぼないが、九枚落ちでは珍しくない。
竜と馬が、上手に持ち駒を打たれて両取りの掛かる位置関係になっていないか、常に意識しておこう。

ただし7図では▲6五金(B図)△5三玉▲6四金△同歩▲同馬とすれば、龍・馬の両方を助けることができた。

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▲6五金を△同金は▲5四龍と玉を素抜けるので下手勝ち。
この形を『一間龍』と呼ぶ。
上位の手合では当たり前のように発生する頻出手筋なので、この機会に覚えておきたい。

ちなみに6図から最善の寄せは、△6四玉▲6五金△6三玉▲5四金(C図)△6二玉▲5三金△5一玉▲5二金まで即詰みに討ち取る順。
7八龍がよく利いていて、上手玉は案外狭い。

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角金交換になって逆転の危険性もあったが、8図の両取りで角を取り返せば一安心。
最後は歩の合駒が二歩になるため打てず、詰みとなった。

一度に多くを語ったため、わかりにくくなってしまったかもしれない。
上手の中央突破に対抗するために、押さえてほしい考え方は2点。
効率的な攻めによって『上手に自由を与えない』こと。
『厚く押し返す』こと。

金銀による攻防は、これから上手の駒が増えていくにつれてどんどん複雑に、かつ面白くなっていく。
ここからが将棋というゲームの本番である。