十枚落ち 上達過程その1
今回からしばらく連続して M・H君 vs 私 の棋譜を取り上げていく。
M・H君は前々回の十枚落ちで下手を持っていた子である。
彼が辿っている上達の道のりはかなり模範的と言えるもので、彼の上達過程は将棋を学ぶ人・指導する人、そのどちらにとっても貴重な参考資料となるだろう。
今回取り上げるのは M・H君 vs 私 の2戦目。
前々回の棋譜が1戦目で、そちらは2017/11/12に行なったものである。
開始日時:2017/12/03 15:28:34
終了日時:2017/12/03 15:35:25
手合割:十枚落ち△4二玉 ▲7六歩 △5四歩 ▲6六角 △6四歩 ▲9三角成
△5三玉 ▲4六歩 △4四玉 ▲2六歩 △3五玉 ▲7一馬
△4六玉 ▲4八銀(1図)
△5五玉 ▲2五歩 △6五歩 ▲2四歩
△6六歩 ▲5八金右 △6七歩成 ▲同 金 △6六歩 ▲6八金引(2図)
△6五玉 ▲2三歩成 △7六玉 ▲7七金 △6五玉 ▲3三と
△7四歩 ▲2二飛成 △7五歩 ▲6八銀(3図) △7六歩 ▲7八金引
△5五歩 ▲5八金 △6七歩成(4図)
▲同 銀 △6六歩 ▲7七桂
△同歩成 ▲同 金 △6七歩成 ▲同金寄 △6六歩 ▲6八金引
△7五桂(5図)
▲8二馬 △6七銀 ▲2四龍 △6八銀成 ▲同 金
△6七歩成 ▲6九金 △8七桂成 ▲6四馬 △7六玉 ▲5四馬
△7七玉 ▲2六龍 △6八金 ▲4九玉 △6九金 ▲5九銀
△4七金 ▲8九銀 △5九金 ▲同 玉 △5八と
まで71手で上手の勝ち
今回は矢倉ではなく、大駒2枚のみでの攻略を目指す駒落ちらしい指し方を採用した。
そのように指せと私が指図したわけではない。
生兵法でしかなかった矢倉に固執するよりもこのほうが良いと、自分なりに考えての選択のようだ。
途中の▲4六歩は、▲4八飛もしくは▲4八銀~▲4七銀と支えなければ上手から付け入る隙となってしまう。
ただし△4六玉と取られたあと▲4八銀と受けて、被害拡大を防いだのは良かった。
△6六歩に▲5八金右と応じたのは、やや高度な方針『と金を作らせない』に沿っており良い。
ただここは代えて▲6六同歩△同玉▲7八金(A図)と応じるのが普通だろう。
またその後の▲6八金引では▲7七金のほうが7六歩に紐をつけられ良かったが、まあ十枚落ちなので目くじらを立てるほどではないか。
手堅いように見えて、この▲6八銀が本局の敗因となる。
△6七歩成が「ダンスの歩」と呼ばれる手筋だ。
金銀3枚どれで取っても△6六歩で金か銀が死ぬ。
下手は暴れたものの駒損が酷く、5図となっては下手難局である。
下手は何がまずかったのか。
以前からこのブログを読んでくれている読者諸君にはもうおわかりだろう。
『攻め駒を玉に近づけ』ていない事である。
なにせ3図から5図までの間、下手の攻め駒2枚(2二龍・7一馬)が1手も動いていないのだ。
本譜に代わる決め手をいくつか示すと……
34手目▲6八銀に代えて▲2五龍△5五歩▲8二馬△7六歩▲5五龍(A図)△7四玉▲7六金。
同じく34手目▲6八銀に代えて▲6二龍△5五玉▲6六龍(B図)。
38手目▲5八金に代えて▲6二龍△7五玉▲9三馬△8四歩▲7三龍(C図)△6五玉▲8四馬。
42手目▲7七桂に代えて▲6二龍(D図)△7五玉▲6六龍△8四玉▲7六銀。
などなど。
どの順も『攻め駒を玉に近づける』『2対1で攻める』が感覚として染みついていれば十分見えるはずだ。
しかもチャンスは3回もある。
A~D図のうち1つでも指せれば勝ちとなるので、実戦的にはかなり下手が勝ちやすい。
逆に言えばこれらの順が見えないのは『方針』が身についていない証拠である。
ここからM・H君がどのように成長していくか、楽しみにして欲しい。
ちなみに予告しておくと、本局の感想戦を終えてすぐに行なった3戦目でM・H君は私を破った。