九枚落ち 上達過程その3

M・H君との5戦目となる九枚落ちを解説する。
4戦目の指し回しは十枚落ちを卒業するのに十分だった。
今回は九枚落ち初戦ということで事前説明をせず、まっさらな状態で挑んでもらった。

終了日時:2018/01/08 16:34:28
手合割:その他
上手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v玉v金 ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし
上手番

△3二金    ▲2六歩    △4二玉    ▲2五歩    △3一玉    ▲2四歩
△同 歩    ▲同 飛    △2二金    ▲2三歩    △3二金    ▲7六歩
△2一歩(1図)
▲5五角    △4二玉    ▲7三角成  △5二玉    ▲7四飛
△2三金    ▲7二馬    △3四歩    ▲7三飛成  △4二玉    ▲6二龍
△3三玉    ▲5三龍    △3五歩    ▲6一馬    △3六歩    ▲4三龍(2図)
△2二玉    ▲3六歩    △3三金    ▲4二龍    △3二金    ▲5三龍
△6四歩    ▲3四馬    △1四歩    ▲2三歩    △3一玉    ▲5一龍
△4一歩    ▲5二馬    △2三金    ▲4一馬    △2二玉    ▲4二龍
△1三玉    ▲2五歩    △2二歩    ▲4四龍    △6五歩    ▲3一馬
△8四歩    ▲2一馬    △8五歩    ▲1六歩    △3四歩(3図)
▲1五歩
△同 歩    ▲同 香    △1四歩(4図)
▲同 香    △同 玉    ▲1二馬
△2五玉    ▲4五龍    △2四玉    ▲3七桂    △9四歩    ▲2五龍
△3三玉    ▲2四歩(5図)
△同 金    ▲3四馬(6図)
△同 金    ▲4五桂
△4四玉    ▲1五龍    △3七角(7図)
▲4八金    △1五角成  ▲4六歩
△1九飛    ▲4九玉    △3七香    ▲5八金上  △3九飛成
まで89手で上手の勝ち

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△2二金は歩を持ち駒に残したまま頑張ろうとする指し方。
対する▲2三歩は、初心者目線では打ちたくなってしまう歩かもしれないが、△3二金と戻られて大したことがない。
そして△2一歩と受けられると、これ以上2筋を攻める順が無いので、結局あとで△2三金と歩を払われてしまいそうだ。
ここは下手が少しだけ損をした。

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もっとも九枚落ちの戦力差はとても大きいので、この程度の疑問手ではまだまだ下手が悪くなったりはしない。
気を取り直して攻めていこう。
『龍と馬を作る』 『攻め駒を玉に近づける』 『2対1で攻める』の『3つの方針』の通りに、上手玉へ迫っていく。

ただ▲4三龍では代えて▲4三馬のほうがまさった。
変化が多いので詳しい説明は後で。

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この辺りの手順は一手一手を細かく見るのではなく、棋譜再生ソフトを使ってささっと流し見してもらえれば十分である。
なんとなく下手が攻めあぐねている様子を感じて欲しい。

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▲1五歩の攻めは良くなかった。
なかなか思うように攻めが決まらず、何か新しい攻め筋を試そうと思ったのだろう。
しかし△同歩▲同香△1四歩と自然に受けられて、香損が確実になってしまった。

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駒損したことで、下手は内心焦っているはずだ。
しかし上手玉はのらりくらりと身をかわし続ける。
▲2四歩と打つ時のM・H君は、何かを発見したかのような表情をしていたが……

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そして決定的な失着が出る。
3四に利いている駒の数は「龍・馬」対「玉・金」で『2対2』なので、▲3四馬は△同金と取られてそれまでだ。
普段なら簡単にわかる理屈なのに、この瞬間だけは錯覚を起こしてしまっていた。

思うに、5図から6図に至る下手心理は次のようなものだ。

「香損はしたけれど、まだ不利になったわけではない(はず)」
「たった金1枚の守りを突破できないのは、自分の攻め方に何か問題があるから(だろう)」
「何か見逃している良い手があって、それを見付ければ勝てる(に違いない)」
「そうか!▲2四歩△同金▲3四馬で決まる」
「何度か読み直しても……うん、行ける!」――※

※の時点で錯覚に気付ければ良いのだが、下手の実力、それも長丁場の戦いで疲れつつある状態では、錯覚に気付くことは難しい。
かくして錯覚は起こるべくして起こったものと言える。

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大駒を取られては、もはや下手に勝ち目はない。
上手から両取りを掛ける筋がいくらでも生じるためだ。
本局も王手龍取りから、ほどなくして上手勝ちとなった。

 

下手はどうするのが良かったか。
一案は2図の▲4三龍に代えて▲4三馬とする手だ。
△2四玉と上に逃げるなら▲4四龍(A図)で、この瞬間は△3四歩の合駒が打てず(二歩になるため)、以下△1五玉▲3五龍△1四玉▲2五馬で詰む。

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▲4三馬に△2二玉なら▲4二龍△1一玉▲3六歩(B図)とし、以下▲3七桂~▲4五桂~▲3三桂成、または▲3五歩~▲3四歩~▲3三歩成を狙うのが良いだろう。

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一例は△2二金▲3五歩△9四歩▲3四歩△3二歩▲3七桂(C図)。

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ゆっくりした攻めに見えるが、上手から反撃する手段が一切無いため急ぐ必要はない。
C図から△1二玉なら▲2四歩と逃げ道を押さえておくのが確実だ。

また本譜も、3図から▲3七桂~▲4五桂~▲3三桂成を目指せば下手の勝ちだった。

九枚落ちでは『3枚目の攻め駒を作る』のが急所である。
「龍・馬」だけでは「玉・金」と『2対2』の力関係になってしまうので、これを『3対2』にして突破する。
本局を説明無しのぶっつけ本番で行なったのも、M・H君に『3枚目の攻め駒を作る』必要性を理解してもらうためだった。
九枚落ちの知識を持たず、十枚落ちの手法だけで攻め切ろうとしてもうまくいかない。
本局で言えば2図~3図の辺りが知識不足により苦労した場面である。