六枚落ち 勝ちへの道筋・前編

今月初め頃、twitterで知り合った人と六枚落ちの対局を行なった。
その将棋を題材としてどのように記事を書くか、ずっと悩んでいたのだが、結局まとまり切らないまま1か月が過ぎようとしている。
しっかりした解説を書きたいという気持ちはあれど、完成しないまま長引かせるのも良くないので、前編・後編に分割して投稿する。

今回はその前編。
まずは1局の流れを通しで見て、上手・下手それぞれの指し方にどんな課題があるのか考えてもらいたい。

開始日時:2018/07/08
棋戦:自由対局室(持ち時間30分)
手合割:六枚落ち

△4二玉    ▲7六歩    △5二金右  ▲9六歩    △8二銀    ▲9五歩
△6四歩    ▲5六歩    △6三金(1図)
▲7八銀    △8四歩    ▲2六歩
△2二銀    ▲2五歩    △3二玉    ▲2四歩    △同 歩    ▲同 飛
△8三銀    ▲5八金右  △4二金    ▲4八銀    △2三歩    ▲2八飛
△5四金    ▲6六歩    △3四歩    ▲3六歩(2図)
△4四歩    ▲6七金
△4五歩    ▲3七銀    △3三金    ▲6八玉    △6五歩(3図)
▲同 歩
△同 金    ▲7七桂    △6四金    ▲9七角    △6三金    ▲6四歩
△6二金    ▲6六金(4図)
△4四金    ▲5五歩    △7四銀    ▲7五歩(5図)
△8三銀    ▲6七銀    △4三玉    ▲5八飛    △3三銀    ▲7六銀
△2四銀(6図)
▲7八玉    △3五歩    ▲同 歩    △同 銀(7図)
▲3六歩
△2四銀    ▲5六金    △3四玉    ▲7九角    △6三歩    ▲同歩成
△同 金    ▲6五銀    △6四歩    ▲7六銀    △7四歩    ▲同 歩
△同 銀    ▲7五歩    △8三銀    ▲2八飛(8図)
△5四歩    ▲2五歩
△5五歩    ▲6六金    △3三銀    ▲1三角成  △7四歩    ▲同 歩
△7五歩    ▲同 銀    △7四銀(9図)
▲同 銀    △同 金    ▲3一馬
△5六歩    ▲5三馬    △2二銀    ▲3五銀(10図)
△同 金    ▲同 歩
△3三玉    ▲4三金
まで98手で下手の勝ち

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上手が私。
ここで下手が▲6六角とすれば9筋攻めが成立していた。
以下△7四金▲9四歩△6五金▲4八角△5六金▲5八金右が一例。
しかし本局、下手は始めから9筋を攻める意志は無かったようだ。

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ここで△4五金があった。
3六歩・5六歩の両取りで、1歩とはいえ必ずどちらかは取られてしまう。
▲3七銀△5六金▲7七銀、または▲3七銀△5六金▲6七銀△同金▲同金とすれば対応できているが、下手にとって予定外の変化であることは明らか。
実戦でうまく対応できるかどうかは怪しいところだ。

「金駒による歩の両取り」は駒落ち上手ならではの手筋だ。
動かす駒が少ないため金銀の進出が速く、また上手にとっては歩1枚でも喉から手が出るほど欲しい貴重な戦力である。
平手ではあまり見かけない手筋であるため、知識としておさえておき、警戒を怠らないようにしよう。

もっとも上手を持っていた私も私で△4五金を見逃していたわけで、まだまだ甘いというところか。

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6筋の歩を交換しに行く。
普通の手のようでいて上手としては勇気の要る手だ。
と言うのも……

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このように、下手から逆に盛り上がってくる手を誘発するからだ。
駒数の少ない上手は、下手に本気で反発されると、どうあがいても押し返されてしまう。

下手としては▲7七桂に代えて▲6六歩と収めても一局である。

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この▲7五歩はどうだったか。
パッと見、銀が出てきて何か仕掛けて来るように思えるが、実は大したことない。
例えば△6五歩は▲同桂で大丈夫。

そしてこの▲7五歩は自分の角筋を遮ったうえ、自ら桂頭にキズを作っていると見なすこともできる。
この手の是非については、後編で詳しく触れる。

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▲7五歩と突いたからには▲7六銀までは指しておきたい。
桂頭のキズを保護する好形となった。

また△4三玉には▲5八飛と回り、上手から△5四歩▲同歩△同金のように動いてくる手を予防している。
本局、下手はとにかく『激しい戦いを避ける』という方針のようだ。
戦線すべての箇所を五分五分で収め続ければ、戦力の多い下手のほうが長期的に見て有利になるのは明白。
そういう理屈である。

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上手にチャンスがあったとすればここか。
図の△3五同銀に代えて△3六歩▲同銀△3五銀とぶつける。
以下▲同銀△同金でA図。

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次に△4六歩▲同歩△同金が飛車の小ビンを狙って嫌味。
▲5六金と受けても△4六歩▲同歩△4七銀がある。
また上手玉が△3四玉~△2五玉のような中段遊泳をしてきそうで、しかも下手陣右翼には土台となる駒が無く、入玉を阻止するのに苦労するだろう。

A図からはひと目▲2八飛△3四玉▲3六歩△同金▲2五銀という筋が見える。
しかし△3四玉でなく△3三玉や△3二玉とされた場合、わかりやすい攻め筋が見えない。
▲7九角△4六歩▲同歩とお茶を濁して、息の長い戦いにするのが一番負けにくいだろうか。
いずれにせよ、下手にとって戦力の少ない場所で戦う羽目になるので、大変な局面であることは間違いない。

A図は上手にとって有力だった。
この筋は、局後に下手の人に指摘されて初めて気づいた。
以前の記事で軽く触れたが、やはり私程度ではまだまだ、六枚落ち上手の底力を限界まで発揮するには至っていないようだ。

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▲5六金は1手パスのような手だったが、▲7九角と引いて下手の優位がはっきりしてきた。
8図は次に▲2五歩と打てば、銀得か▲1三角成のどちらかが確実。

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下手に馬を作られて、上手としてはうかうかしていられない状況。
△7四銀とぶつけて勝負に出たが、これは悪手だったかもしれない。
結果論だが、下手を迷わせる効果よりも、下手の持ち駒に銀が入ることで攻めをわかりやすくさせてしまう意味のほうが大きかった。
△5三金~△7二銀~△6三銀~△4三玉~△5四玉のように、とことん粘り倒すほうがまだ下手にとって大変な局面を演出できたかもしれない。

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銀が入ったので下手には▲3五銀というわかりやすい攻め筋が生じた。
馬で上手玉の退路を断ってから打ち込んで寄りとなる。
あらかじめ▲3一馬~▲5三馬と回り込んでおくことで、上手玉を4・5筋へ逃がすことなく仕留め切れた。

下手氏いわく、中盤は苦手だが終盤力には自信ありとのこと。
その言葉通り、馬を作ってからの素早い寄せは見事だった。

 

さて。
簡単に一局の流れを解説したが、どう思われただろうか。
私は、六枚落ち下手という条件で、本局のような指し方では良くないと考える。
端的に言うとすれば『勝ちへの道筋を主体的に描けていない』のである。

具体的にいかなる理屈で、下手の指し方に問題があると断言できるのか。
後編では、その説明を試みたい。