八枚落ち 上から押さえるように

勝った将棋であっても、その勝ちに至るまでの手順がすべて最善手であったとは限らない。
むしろ勝ち将棋にも、多くの悪手・疑問手や課題点が含まれていることのほうが、はるかに多いだろう。
今回の題材はそんな実戦譜である。

手合割:八枚落ち

△3二金    ▲1六歩    △7二金    ▲1五歩    △6二玉    ▲1四歩
△同 歩    ▲同 香    △7一玉    ▲1八飛    △8二玉    ▲1一香成
△2二金    ▲1二成香  △3二金    ▲1三飛成  △4四歩    ▲7六歩
△4三金    ▲2二成香  △5四歩    ▲2三成香  △5五歩    ▲3三成香
△5四金    ▲4三成香(1図)
△6五金    ▲5二成香(2図)
△9二玉    ▲2二龍
△2一歩    ▲同 龍    △8四歩    ▲3二龍    △8三玉    ▲6二成香
△8二金    ▲9六歩    △6四歩    ▲7八銀    △5六歩    ▲同 歩
△同 金    ▲5八金左  △5四歩    ▲4四角    △4七金    ▲同 金
△3一歩    ▲同 龍    △6五歩    ▲3五龍    △6六歩    ▲同 歩
△5五歩    ▲7一成香(3図)
△8五歩    ▲5三角成  △9四歩    ▲7七桂
△9二玉    ▲8五桂    △8三玉    ▲5五龍    △9二玉    ▲7五龍
△7四歩    ▲同 龍    △9五歩    ▲同 歩    △9三金    ▲6四馬
△8三金    ▲同 龍    △同 玉    ▲7四金    △9二玉    ▲9三金
まで78手で下手の勝ち

本局はスマートフォン向け将棋アプリ「ぴよ将棋」を使った八枚落ち局。
上手は「ぴよ帝」、要するに最高レベルに設定した「ぴよ将棋」で、下手を持っているのは私のtwitterにおける相互フォロワーの人だ。
ぴよ相手の六枚落ちで苦戦しているというtweetを見かけたので、棋譜を見せてもらったという経緯。

こうして棋譜を見ると、その人が行き詰まっていた原因は、八枚落ちの勝ち方にまだ課題を残したままで六枚落ちへ挑んでしまった所為であると、はっきりわかる。
どこに課題があるのか、少し考えてみてほしい。

私がまず注目したのは成香の使い方である。
1図~3図を見てみよう。

f:id:kousokubougin:20180708151017p:plain

f:id:kousokubougin:20180708151030p:plain

f:id:kousokubougin:20180708151042p:plain

成香が敵陣の奥へ奥へと移動しているが、これが良くない。
と言うのも、成香は斜め下に動けない駒だからだ。
3図を冷静に分析すると、攻撃目標たる上手玉が成香の斜め下方向に来てしまっていることに気付くだろう。
つまり7一成香は上手玉に対する攻め駒として機能していないのである。

f:id:kousokubougin:20180708151056p:plain

と金・成香・成桂・成銀はすべて金と同じ動き=斜め下には動けない駒だ。
この特性を踏まえると、これら4種の駒は、相手玉を『上から押さえるような位置取りで使う』のが強いことを理解できるだろう。
反対に、真下や斜め下方向に相手玉を捉えても、大抵の場合たいした圧力をかけられない。

f:id:kousokubougin:20180708151108p:plain

よって、これら4種の駒は『高い位置を維持するように動かす』のが良いという一般法則も導ける。
敵陣一段目では、絶対に相手玉を上から押さえる形にならない。
二段目よりも三段目、四段目のほうが上から押さえる形を作りやすいことは明らかである。

こうした理屈=『棋理』を踏まえて、成香の使い方を修正するなら次のような順が一例。

1図以下、△6五金▲5三成香△6四金▲2二龍△8一玉▲6二成香△8二金▲5二龍△8四歩▲6三成香(C図)。

f:id:kousokubougin:20180708151143p:plain

敵陣三段目の成り小駒は価値が高いので、軽々しく奥へと入り込まず、横に滑るような動きを意識しよう。
▲6三成香のように1手かけて引くのも、見た目以上に価値の高い手になることが多い。
『と金は引いて使え』という格言もあるくらいだ。

6四金に成香をぶつけて除去すれば、▲5五角と捌けるようになるので、C図以下は楽に寄せ切れるだろう。

以上、『成り小駒は上から押さえるように使う』ということを述べた。
本局からはまず第一にこのことを学んでほしい。

その他の課題点は、以下にさらっとまとめておく。
余裕のある人だけ読んでくれれば良い。

12手目▲1一香成:▲1二香成が優る。
24手目▲3三成香:▲5五同角と、この時点で歩をタダ取りすれば角道を止められずに済んだ。
32手目▲2一同龍:▲4二龍が優る。歩を取ると龍筋がずれてしまい、攻めが遅れる。
局面を分かりやすくする意味では、タダで取れる駒は全て取ってしまうのが有効だが、より上を目指すなら、ある程度見切りをつけて速度を重視する視点を養いたい。
40手目▲7八銀:△7六金~△6七金などを先受けするなかなかの手だが、最善は▲6三成香。
次に▲6二龍~▲6四成香や▲9七角~▲6四成香が狙える。
50手目▲3一同龍:32手目と同様に無視して、▲4三龍~▲6三成香~▲6二角成としたい。
60手目▲7七桂:上手に持ち駒が無いので、▲5五龍が▲8五龍以下の詰めろとなる。
70手目▲9五同歩:▲9三金or▲9四龍以下の詰み。
72手目▲6四馬:▲9三同桂成△同玉▲8三金or▲7二龍△9一玉▲8一成香or▲8二金△同玉▲7二龍△9一玉▲8一成香で詰み。